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(2016/12/14 05:00)
再建途上にあるシャープとジャパンディスプレイ(JDI)の生き残りを賭けた動きが活発になってきた。シャープは台湾・鴻海精密工業の傘下で、テレビ用の大型液晶パネルに注力する方針を明らかにした。一方のJDIは次世代液晶と有機エレクトロ・ルミネッセンス(EL)パネルの両輪で、中小型市場に攻勢をかける。ただ資金力に劣るJDIには、もう一段上の成長戦略が必要になりそうだ。(編集委員・鈴木真央、政年佐貴恵、大阪・錦織承平、小野里裕一)
【中期戦略策定】
JDIが、ソニーとパナソニックの有機ELパネル事業を統合したJOLED(東京都千代田区)を子会社化する方向で検討していることが13日明らかになった。JOLEDは産業革新機構が75%、JDIが15%、ソニーとパナソニックがそれぞれ5%ずつの株式を保有する。JDIは革新機構の保有分から35%以上の株式を取得し、子会社化するとみられる。
JDIは現在、新たな中期戦略の策定と、それを基にした革新機構からの750億円の資金支援についても交渉中だ。JOLEDの子会社化は成長戦略の一部とみなされるが、すぐに相乗効果が生まれるかは疑問符が付く。
JOLEDは印刷方式で製造する中型有機ELパネルの開発を進める。印刷方式のメリットは生産コストを低減できる点だが、量産開始は2018年の予定。
【メリット】
中小型液晶の主戦場はスマートフォンだ。この有機ELパネルをスマホ向けに展開できれば、JDIにとってのメリットも大きい。しかし印刷方式は1インチ当たりの画素数(ppi)が400程度が限界とされており「スマホで必要とされる解像度には満たない」(パネルメーカー幹部)。JDIは型の役割を果たすメタルマスクを用いて有機EL材料を塗り分けることで高解像度を見込める「蒸着方式」の有機ELパネルの開発を進めており、17年には量産試作ラインを稼働する予定だ。革新機構から資金支援を得たとしても、JOLEDの子会社化により経営資源が分散されてしまう恐れもある。
【食い合い懸念】
もう一つの懸念は、市場の食い合いだ。JOLEDはこれまでパソコンをターゲット市場に据えていた。しかしJDIも非スマートフォン市場の拡大を掲げ、パソコン市場への攻勢を積極化している。16年に入り、JOLEDは医療用や航空機用のモニターといった業務用市場に軸足をシフトした。関係者からは「JOLEDの手がけられる範囲は限られている」との声もある。
鴻海とシャープは、大規模投資も可能になった。一方でJDIは機構の支援を受けてもそこまでの投資はできない。今回、シャープとJDIの立ち位置の違いが明確になったことにより、両社の提携に折り合いが付けられるという見方もできる。JOLEDの子会社化がJDIの成長に結びつかなければ、再び提携案が浮上する可能性もありそうだ。
■革新機構のJDI支援−経産相、出資に前向き
世耕弘成経産相は13日、革新機構による支援について一般論と前置きした上で「つなぎ資金などを出すべきではなく、日本の産業構造の革新につながる案件にこそしっかり出資するべき」と断言した。シェア争いが激化するディスプレー産業について「生き馬の目を抜く世界。ゆっくりはしていられない」と、JDI支援策の決定にそれほど時間をかけない考え方を示した。
ただ、JDIの実質救済に対しては経産省内でも意見が分かれる。「あれもこれもやり過ぎた結果、ディスプレー産業は衰退した」(幹部)との声があり、JOLEDを抱き込むことが、本当に成長に資するのか疑問視する向きはある。
ディスプレー業界は1兆円規模の投資競争が繰り広げられ、判断のタイミング、スピードが勝敗を分ける。事業多角化によるリスクヘッジ効果はあるものの、結果的に投資余力がなければ事業ポートフォリオの転換は難しく、時流に乗り遅れる。
シャープは巨大な鴻海グループに仲間入りし、ある意味で設備投資を気にせず、日本の液晶技術をタイムリーに世界最大・最先端工場で開花させられるようになった。「メーカーがいくら革新的だといっても多くの人に使ってもらえなければ意味がない」(デバイス関連メーカー幹部)。JOLEDの優れた技術で産業構造を変えるためにも、再び資金調達の議論にならざるを得ないだろう。
■鴻海、中国に19年TV用液晶パネル工場新設
台湾・鴻海精密工業は、19年にも中国でテレビ用の大型液晶パネル工場を新設する検討を始めた。13日、鴻海幹部が「検討の段階」と認めた。鴻海傘下のシャープも技術面などで協力する。建設候補地として広東省広州市などが挙がっている。地方政府から補助金を得て負担を抑える計画だが、総投資額は8000億円規模になる可能性がある。
同幹部は液晶パネル需要について「大型化が進むほか、社会の進歩で需要はもっと増える。供給が足りなくなる可能性もある」との見解を示した。新工場は10・5世代や11世代(3370ミリ×2940ミリメートル)と呼ばれる世界最大級のガラス基板を採用するとみられる。大型液晶を低コストで量産し、液晶工場を次々に立ち上げる中国勢に対抗する。
シャープは10世代の堺ディスプレイプロダクト(堺市堺区)を運営してきた技術力で新工場立ち上げに協力する。
中国ではテレビ用大型液晶パネルの増産に向けて、現地の液晶パネルメーカーの大型設備投資が相次ぎ、日本のサプライヤーの動きも活発化している。旭硝子は13日、中国の液晶パネルメーカー、深圳市華星光電半導体顕示技術と広東省深圳市に合弁会社を設立し、薄膜トランジスタ(TFT)液晶用ガラス基板製造工場を建設すると発表した。11世代サイズの基板を19年に量産し、同社に全量供給する。生産能力は月間14万枚を計画する。
17年夏ごろに旭硝子が70%、深圳市華星光電半導体顕示技術が30%を出資し、新会社「旭硝子新型電子顕示玻璃(深圳)」を設立する。資本金は108億円の予定。
TFT液晶用ガラス基板は液晶テレビ生産の伸びを背景に需要の拡大が続いている。合弁で生産することでガラス基板の安定確保につなげる狙いがある。
(2016/12/14 05:00)