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(2016/12/20 05:00)
空調技術が鮮魚市場を拡大する―。高砂熱学工業は3月に初めて、海水シャーベットアイス製造装置を長崎県平戸市の平戸魚市に納入した。同社の氷蓄熱空調システムの技術を応用した装置だ。氷粒径が0・05ミリメートルときめ細かく滑らかなシャーベットアイスは氷濃度が高く、梱包材の中で魚の隙間に入り込む。魚を傷つけずに急速かつ均一に冷却する。新鮮な魚をより多くの家庭に届けることができる。
同社は約20年にわたり商業施設やホテルなどに空調用の氷蓄熱システムを提供してきた。電気料金が安い夜間にビルの床下に大量の氷をつくる。電気使用がピークに達する昼間に空調用の冷凍機を止めて床下の冷熱を利用する仕組みだ。
ここでシャーベットアイスは活用されてきた。0度C以下でも凍らない「過冷却」といわれる不安定状態の水に超音波振動を加え、シャーベット状の氷をつくる。シャーベットアイスは循環ポンプで圧送され、効率的な空調を実現する。
同社はこのシャーベットアイスの活用先を探す中で漁港の魚市場の悩みを見つけた。従来の氷かき取り式の装置がつくるシャーベットアイスはきめが粗く氷濃度が低い。魚は傷つき、遠距離輸送では鮮度を保てない。この課題解決のため、約2年をかけて過冷却状態の海水からシャーベットアイスをつくる装置を開発した。松平章宏新規事業開発部課長は「通常の水とは凝固点が異なることに苦労した」と振り返る。
同装置はボタン一つで、粒径が従来の10分の1で氷濃度が高いシャーベットアイスを製造できる。魚の種類に応じて塩分濃度も調整可能だ。鮮度を測る試験では、砕氷に比べ生食可能期間が2日近く伸びたという。
九州の西端に位置する平戸のように、大都市から遠距離の漁港からの水産物供給能力を高めることができる。松平課長は「梱包などを工夫すれば海外への輸送にも耐えられる」とみる。
水産加工や流通業者も導入に関心を示しているという。高砂熱学工業の空調技術応用による水産物高鮮度流通への取り組みは新展開を見せそうだ。(田中明夫)
(2016/12/20 05:00)