[ ロボット ]
(2017/2/9 05:00)
原発事故の核心にロボットが迫ろうとしている。3月末までに東京電力福島第一原子力発電所の1号機と2号機に調査ロボットが投入される。いずれも溶け落ちた核燃料(燃料デブリ)の調査が目的だ。燃料デブリの状態を知ることはデブリの取り出し工法を決める上で重要なステップになる。事故からまもなく6年。燃料デブリの様相が明らかになろうとしている。(小寺貴之)
「ようやく核心に迫れる段階に来た」と東電福島第一廃炉推進カンパニーの増田尚宏プレジデントは説明する。建物内の除染や従業員の作業環境整備を進め、ようやく炉心の状況を調べる段階までたどり着いた。
1号機は核燃料のほぼ全量が溶け落ちて格納容器の底に広がっており、2号機は一部が溶け落ちたものの核燃料の大部分は圧力容器内に留まっていると推計されている。ただ実態は見てみないとわからない。ロボットやカメラを投入し、まずは視認を目指して計画が進められてきた。
【ペデスタル撮影】
1月末に2号機の格納容器内にカメラが挿入され、燃料デブリが落ちてできたとみられる穴を見つけた。圧力容器を支える円筒の構造物(ペデスタル)の内部に初めてカメラが入り、圧力容器の底やその下の作業空間を撮影した。
圧力容器底部の制御棒駆動機構や計装機器は比較的以前の状態で残っていたものの、その下の作業空間では格子状の床(グレーチング)がゆがみ1メートル四方の穴があいていた。
グレーチングは鉄製で鉄の融点は約1500度C。東電は結論付けられていないが、溶けた核燃料が2000―3000度Cの高温になり、グレーチングを溶かしながら落下したとみられる。
【調査法見直し】
2号機はサソリ型ロボを投入し、内部を調査する予定。ただペデスタル内に進入してすぐの場所に穴が空いており、サソリ型ロボが想定していた調査ルートが通れなくなっていた。またグレーチング上や投入するレール上には褐色や黒色の堆積物があった。サソリ型ロボが堆積物上を滑らずに走れるか、事前確認する必要が出てきた。現在、調査法を見直している。
ペデスタル進入口の近くに堆積物や穴があったことは利点もある。ペデスタル内をサソリ型ロボが走り回る調査は難しくなったが、堆積物のサンプリングや穴の底にある落下物の確認がしやすい場所にあるといえる。
カメラは長さ10・5メートル、重量150キログラムのさおの先端に搭載してペデスタル内まで挿入された。さおを強化し先端にマニピュレーターやセンサーを付ければ、自重制限の厳しいロボには難しい力仕事ができる。ロボットよりも回収しやすい。
サソリ型ロボは自身の真下を観察できるため、穴の縁に接近して底の燃料デブリを捉えられる可能性がある。サソリ型ロボは有線で電力や制御信号をやりとりしているため、穴の中に降ろしてしまうことも可能だ。
燃料デブリへの冷却水のかかり方や格納容器底のコンクリートとの反応具合など、ロボット自体が回収できなくなっても余りある情報が得られるだろう。東電原子力・立地本部の岡村祐一本部長代理は「ロボットが壊れるまで使い倒したい」という。
サソリ型ロボの前に走行ルートの堆積物を除去する掃除ロボを投入する。7・5メガパスカル(メガは100万)の高圧水を噴射したり、機体前面のスクレーバーで堆積物をそぎ落としたりして堆積物の性状を確認する。体積物上の走行性を確認し、サソリ型ロボの調査に反映する。
掃除ロボは放射線量分布を測定し直す役割もある。さお付きカメラを挿入した際に毎時530シーベルトという高線量が観測されたためだ。この場所がペデスタルの外で内部よりも高かったため、値が本当ならペデスタル外部まで燃料デブリが広がっていることになる。
ただ宇宙線ミュー粒子(ミューオン)測定では、大部分が圧力容器内に留まっていると推計されており、結果が矛盾する。掃除ロボが線量分布を計り直すことで決着を付ける。
■ワカサギ釣り型−格納器内線量を測定、線源の空間分布推定
1号機では15年4月にヘビ型調査ロボが投入された。17年はヘビ型調査ロボの後継機となるワカサギ釣り型ロボ「PMORPH」(ピーモルフ)が投入される。PMORPHはヘビ型ロボが調査したペデスタルの1階部分を走行し、グレーチングの隙間からカメラセンサーを垂らして地下階を調査する。1号機は核燃料のほぼ全量が溶け落ちていると推定されており、地下階での燃料デブリの広がり方を確認する。
【壁面確認が焦点】
ヘビ型ロボで走行性が確認されているため、PMORPHは挑戦的な調査法を選べた。カメラセンサーを一階から地下階に約3・1メートルつり下げる。地下階は高さ2・5メートルまで水没していて、配管や構造物などが入り組んでいる。カメラセンサーが水流で揺れ、構造物にひっかかったり、構造物に接触して沈殿物を舞い上げたりしたら一大事だ。
カメラセンサーに放射性物質が付着すれば、以降は線量が正しく計れなくなり、ひっかかればカメラセンサーが回収不能になりかねない。PMORPHは格納容器内の5カ所で調査する予定だ。高さ5センチメートルごとに線量を計り、線源の空間分布を推定する。
PMORPHの最大の調査項目は燃料デブリが広がって格納容器の壁面まで達する「シェルアタック」の有無だ。格納容器はドーナツ状のサプレッションチェンバーに囲まれている。サプレッションチェンバーにつながる配管まで燃料デブリが達して、流れ込んでいると取り出し工法の難度が跳ね上がる。
日立GEニュークリア・エナジーの岡田聡主任技師は「壁面や配管に燃料デブリが達していたとしても、穴があいているかは掘ってみないと判定できない。次のロボットが必要になる」と説明する。
サソリ型ロボやPMORPHだけでは全容はわからない。3号機は調査ロボを開発中で、調査計画はまだできていない。ただ国と東電は17年夏ごろには取り出し方針を決める。取り出し方針はどこまで細部に踏み込めるか、原発ロボたちの活躍にかかっている。
(2017/2/9 05:00)