[ オピニオン ]
(2017/3/30 05:00)
イノベーションを創出する博士人材への期待が高まる中、学生が異分野挑戦や事業化の意識を高める教育手法が注目されている。産学協働イノベーション人材育成協議会(京都市左京区、北野正雄代表理事=京都大学理事)は、”研究室一筋”が伝統的な日本の大学院教育を変える理系大学院生のインターンシップ(就業体験)を進めている。案件が増えてきたことで、どのようなモデルが効果的かといったノウハウが得られ、産学の理解を高める好循環に持ち込もうと狙っている。
同協議会のインターンシップは、理系の大学院生とくに博士学生を対象とする。学生が個人で参加する一般的なものと異なり、産学が組織的に取り組むものだ。京都大学、大阪大学など13大学、三菱電機や東レなど約40社が会員だ。学生がシステムに登録し、大学のコーディネーターらが企業と学生の希望に合わせてマッチングし、学生は企業で2カ月以上の長期にわたって研究関連の活動に従事する。2014年7月‐16年12月の実施件数は約130件となり、藤森義弘事業責任者は「効果があるのはどのような形かがわかってきた」と強調する。
その一つは、「専門分野などのマッチングは“ぴったり”を目指す必要はなく、少しずれている方が有効だ」というものだ。状況や能力がそれに対応可能である場合には、その方が予想外の有益な結果が得られるのだ。例えば企業が考えていた実験系の学生ではなく、理論系の学生が派遣されたケースがある。実験系の研究現場にとっては学生の発想が新鮮で、従来とは別の角度からのアイデアが企業研究者の中に湧いてきたという。ほかに企業メリットとして、「取り組みたいと思うも、人員不足などで未着手だった案件を担当してもらえた」という声も、多く上がっている。
学生にとっては、企業の厳しい研究開発の議論やマネジメントに接することでの人材育成効果がある。革新的な技術をどのように事業に結びつけるかといった大きな議論から、顧客スケジュールに対応した目標管理の下で綿密な研究計画を立てて動く日常の活動まで、大学では経験できない世界だ。これらを体験した学生は、大学へ戻ってからの基礎研究でも、事業化や産業の意識を持ち続けて自らの研究に取り組めるようになったという。企業の秘密管理や、企業と学生の高い能力などが求められるものの、理想的なモデルといえる。深く狭い専門分野にとらえられがちな博士学生にとっては、どのように自身の研究分野が見られ、異分野での能力活用が可能か、ということを知る機会としても有意義だ。
もっとも、学生の登録数が約900人となる中、実施数はまだ多いとはいえない。大学の教員の理解を得るなど、関係者の間をつなぐのに重要なコーディネーターも、大学によって産学連携や就職支援、教育など主担当がばらばらで、一筋縄ではいかない。それでも効果を実感した当事者の声が、これらの課題を乗り越える原動力となることが期待されそうだ。
(山本佳世子)
(このコラムは執筆者個人の見解であり、日刊工業新聞社の主張と異なる場合があります)
(2017/3/30 05:00)