[ オピニオン ]
(2017/4/20 05:00)
麻生太郎副総理兼財務相とペンス米副大統領による日米経済対話の初会合は、貿易・投資ルールなど3分野で具体的な成果を目指す方針で合意した。懸案の貿易や為替で踏み込んだ議論はなく、日米の貿易不均衡をめぐる対立はひとまず回避された格好だが、先行きは楽観できない。むしろ、日本の経済界にある「ペンス頼み」の危うさが露呈したような気がしてならない。
トランプ大統領の誕生以来、米政権が打ち出す政策の不確実性に気をもむ日本の経済界。とりわけ、WTO(世界貿易機関)を軸とする多国間の自由貿易体制が揺らぐことへの警戒感は強い。
政治経験が長く共和党からの信頼も厚いペンス氏に対しては、日本側の期待も大きい。日本企業も数多く進出するインディアナ州知事を務めたこともあり、財界関係者は一様に「米国経済における日本企業の貢献を認識しているはずだ」と口にする。今回の日米対話についても経済問題をトランプ大統領から切り離し、ペンス氏に委ねたことを歓迎する声が大きかった。
ところが、18日の麻生・ペンス会談は、そんな根拠なき楽観論に水を差した印象だ。麻生副総理が「日米のリーダーシップで、貿易および投資の高い基準を作り、アジア太平洋地域に自由で公正な貿易ルールを広げていく」と強調したのに対し、ペンス氏は「TPP(環太平洋連携協定)は過去のもの」と明言。むしろ日本が警戒する二国間の枠組みであるFTA(自由貿易協定)に言及した。米国のTPP回帰という期待を打ち砕くようにも映る。
しかし、絶望視するにはまだ早いようだ。トランプ政権が医療保険制度改革法(オバマケア)代替法案の撤回を余儀なくされたように、通商政策も議会承認を得られなければ実現しない。共和党内にも現在の貿易体制を支持する層が存在することに望みをつなぐ声もある。いずれにしても、通商問題に関する実質的な対話が始まるのは米通商代表部(USTR)代表にロバート・ライトハイザー氏が就任してからだ。
猶予期間とは思いたくないが、それまでの間、日本は何ができるのか。まずは日米両国の利益にとどまらず、アジア太平洋地域の成長という大局的な視点に基づいた議論を米国に促すことが一つだろう。
経団連は5月中旬、米国に経済ミッションを派遣する。ワシントンだけでなく、トランプ大統領誕生の原動力となった中西部の工業地帯も精力的に訪れ、相互理解を深めたい考えだ。地道なようだが、急がば回れ-。連邦政府のみならず州レベルなどあらゆる場面を捉え、日本の考えを積極発信することが、日本が目指す「質の高い」貿易・投資ルールの実現へ道を拓く。
(神崎明子)
(このコラムは執筆者個人の見解であり、日刊工業新聞社の主張と異なる場合があります)
(2017/4/20 05:00)