[ オピニオン ]
(2017/4/20 05:00)
がんなど病気の確定に不可欠な病理診断の分野で、情報通信技術(ICT)を活用する議論が盛んだ。がん患者数が増加する中、人工知能(AI)やデジタル画像を活用した遠隔診断により、診断時間の短縮や効率化が図れ、誤診などミスの抑止も期待できる。病理専門医(病理医)不足の解消にも寄与しそうだ。先端技術を取り入れ、高度化につなげてほしい。
病理診断は患者の組織・細胞から作成した標本を顕微鏡で調べ、病気の種類を確定する。病気の原因や治療方針、予後の推定にも使われ、医療現場に有効な情報を提供する役割も担う。診断件数は2005年から15年で約2・2倍に増加し、特に手術中に調べる術中迅速診断は約2・6倍と伸びが顕著だ。
一方で病理医不足は深刻である。日本全国で約2300人しかおらず、人口当たりの人数は米国の3分の1以下にとどまる。また関東地域に多く、中四国・東北地域に少ないといった地域間格差もある。病理医の不足や偏在は、診断精度を確保する上で不十分という指摘もあり、その解決策としてもICTへの期待は高まっている。
医療機器メーカーやIT企業が遠隔病理システムなどを提供しており、国も病理診断にAIを活用する検討を始めている。日本病理学会は全国の病理画像を収集し、病理診断精度管理や病理診断を支援するシステムの開発に乗り出している。
地域でもICTを活用した連携が始まりつつある。滋賀県では滋賀県立成人病センター(滋賀県守山市)を中心に遠隔病理診断ネットワーク「さざなみ病理ネットワーク」を運用。複数の病院をつなぎ、仮想的に全県型の病理部門をつくることで、病理医不在の病院でも早期に精度の高い診断ができる。全国規模に広がることを期待したい。
もちろん、病理医の育成は急務だ。病理に関わる医療機器、製薬企業や医療機関などが参画するNPO法人「病理診断の総合力を向上させる会」なども啓発活動を推進している。医療機関だけでなく、産業界も積極的に関与していく必要がある。
(2017/4/20 05:00)