[ トピックス ]
(2017/5/22 05:00)
介護医療や物流、案内など多様な分野での活躍が期待されるサービスロボット。2010年に新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が20年に1兆円突破、35年に5兆円に近づくとの国内市場予測を発表して以降、ソフトバンクの「ペッパー」を始めとするロボットが続々登場。技術・コスト面の課題も着々とクリアし、「予測より前倒しで成長するのでは」(野村総合研究所ビジネスIT推進部の長谷佳明氏)との声も出てきた。(石橋弘彰)
機能絞り 低コストで開発
サービスロボットが本格普及する素地は整ってきた。
まずは価格。スマートフォンの普及でカメラやセンサー、小型で高出力のモーター、中央演算処理装置(CPU)などロボットに必要な要素技術の価格が低下。加えて汎用的な基本ソフト(OS)の普及など、低コストで開発できる環境も整っている。
ロボット自体も機能を絞って開発費を抑制するようになった。ソフトバンクの「ペッパー」やシャープの「ロボホン」など20万円台から、タカラトミーの「オハナス」など約2万円の低価格ロボットも出てきた。
成長に必要なエコシステム(生態系)もできてきた。1万台以上普及したペッパーは2000社が採用。アプリケーションを開発する企業を集めたコミュニティーを作り、アプリの進化を加速している。飛行ロボット(ドローン)も採用が進み、ドローンを使った各種サービスや保険制度なども整備されてきた。
日本語の壁―ガラパゴス化懸念
一方、コミュニケーションロボットの分野では、普及に向けて音声対話技術の向上が課題だ。現状では雑踏の中での聞き取りができないなど、まだ不十分。家電操作やスマートフォンを介した見守りや対話など「できること」が増え、法人の利用も進んだが、音声対話技術がカギを握る。人工知能(AI)の活用も進んでいる。
サービスロボット関連事業を担うロボットスタート(東京都目黒区)の中橋義博社長は「米アマゾン・ドット・コムのAIスピーカー『エコー』や米グーグルの『グーグルホーム』といった優れた音声対話技術が、ロボットより受け入れられる可能性がある」と指摘する。エコーは約2万円。モーターやカメラがないため低価格で月額利用料もない。音声認識も離れた場所でも比較的しっかり聞き取ることができる。
だが、海外の技術には「日本語の壁」が立ちふさがる。音声認識力は一般的にAIが会話データを学ぶほど賢くなる。英語は膨大な音声データがオープンで利用できる環境が整っているが、日本語はデータ量が圧倒的に少ない。世界市場で見ても日本語圏は小さく、海外の企業がどこまで本気で取り組むかは読めない。
一方、日本はこれまで電機・情報通信メーカーが個々に日本語音声対話に取り組んできた。各社が要素技術を持っており、ブレークスルーが期待できる。とはいえ、「ロボットがガラパゴス化する」(業界関係者)という危惧もある。
日本ではドローン配送の実験が進むが「欧米では車輪型。もう実用段階にある」(関係者)という。
エストニアのスターシップ・テクノロジーズの出前ロボット「スターシップロボット」は高さ60センチメートル、6輪で人間の歩行と同じスピードで動く。自動車と違い歩道を走行することができ、遅いので安全性も高い。
9割を自律走行、1割が人手の操作と、人と技術が役割分担してロボット技術の弱点もフォローする。米ドミノ・ピザが採用を決定し、今夏から欧州で稼働する予定だ。
米サンフランシスコのベンチャー企業、マーブルも出前ロボットを開発した。フードデリバリー企業と提携し出前サービスを始めているという。
【インタビュー/野村総合研究所ビジネスIT推進部・長谷佳明氏】
連携重要「最終判断は人」
サービスロボットの将来について、先端的なIT技術や萌芽(ほうが)的技術に詳しい野村総合研究所ビジネスIT推進部の長谷佳明氏に聞いた。
―市場予測の実現可能性について。
「NEDOの市場予測は10年にまとめたものでAIブーム、自動運転技術の進化、ペッパーの登場などが盛り込まれていない。市場予測の数字は前倒しになるのでは、と分析している。予測では自動運転技術など移動系の割合が大きいが、AIなどの技術を見るともっと技術革新が早まると考える」
―サービスロボットの中でも注目株は。
「トヨタ自動車のHSRが『ワールド・ロボット・サミット(WRS)』の競技で使うロボットに選ばれた。これにより多くの開発者がHSRを使いアプリを開発してくれるため実用化が早まる。開発の基盤となることが、ロボット技術をビジネスにつなげるための必須条件といえる」
―ロボット市場の拡大には、既存の技術で足りますか。
「音声認識精度の向上やアクチュエーター(駆動装置)の進化など課題はあるし、制度整備も必要となるが、既存技術の延長線でも普及する。例えば、人が介在する『半自動』的なロボットなら技術のハードルは下がる」
「スターシップ・テクノロジーズの出前ロボットは1人のオペレーターが複数台を管理する。最初は人の操作が主で、出前のリピート利用ではロボットが半自律的に走行するロボットやAIが人の知見を学びながら得意な作業を担い、最終判断は人、といったいわゆる『ヒューマン・イン・ザ・ループ』的な連携がサービスロボットでは重要だろう」
(2017/5/22 05:00)