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[ 中小・ベンチャー ]
(2017/6/8 05:00)
大企業の雇用環境が明るさを増す一方で、中小企業の人手不足は深刻さを増している。中でも技術者の不足が目立ってきた。少子高齢化が進展するなかで、その厳しさは今後も増すとの見方が多い。人材確保のため、中小はあの手この手で対応していく必要がある。人手不足が常態化する時代が遠い将来ではなくなりつつある。そこで中小の人手不足の現状と課題、解消策などを探った。(特別取材班)
【技術者採用が困難/辞退者想定で活動】
メッキ加工を手がける田口電機工業(佐賀県基山町)の田口英信社長は、「アベノミクスで大企業の収益が拡大するのに比例して、採用は厳しさを増す」と強調する。この言葉は今の中小の置かれた現状を端的に表している。大企業が採用に積極的になればなるほど、中小は人手不足に追い込まれていく。
精密プラスチック成形金型を設計・開発・製造・射出成形加工するホクト精工(長野県千曲市)は、毎年、新卒を数人採用してきたが、2017年春の入社はゼロ。その後、大手採用ナビを使い6月までに4人を採用した。
葵工機(岐阜県坂祝町)の納土総(のうどさとし)社長も「競争が激しい。近隣でも好条件を提示する会社も多く、ほとんど応募が来なくなった」とし、深刻度合いは一段と増してきている。
同社は、航空機部品の熱処理後の歪(ゆが)みを取る板金加工が主力で、ウオータージェット(WJ)加工も手がける。かつては「航空機やWJ加工に新しさを感じてくれるのか、多い年は技術者1人に10人が面接に来た時もあった」(納土社長)と振り返る。
東成エレクトロビーム(東京都瑞穂町)の上野邦香社長は、今後予定する新卒採用について「実力のある地元企業でも会社説明会の申込者が4割来ないという情報を耳にする。当社の新卒採用も辞退者を想定して活動しなければならない」と危機感を募らせる。
製本システムを手がける太陽精機(京都市南区)は、毎年、新卒を20人程度採用している。しかし、堀英二郎社長は「特に技術系の採用が難しく、今年は数人にとどまった」と嘆く。広伸(大阪府門真市)の水口政治社長も「新卒も中途も技術者が入ってこない」として、技術者不足には、ますます拍車がかかってきている。
【確保へあの手この手/就業体験で成果も】
こうした中、中小各社は人材確保のためさまざまな対策に乗り出している。ワックデータサービス(埼玉県富士見市)は、産学連携とインターンシップ(就業体験)で成果を上げる。10年から東洋大学や高知工科大学などへ研究委託すると同時に、担当学生を就業体験で受け入れ、2人の学生が入社。「中小企業なのでリソースが不足している。そこで大学の基礎的な研究の知識をいただきたかった」(渡辺和久社長)との思いだ。佐田(東京都千代田区)は、3年前から新卒を採用し、5人、13人、15人と年々増やし、今後新卒・中途それぞれ15人程度ずつ採用する。佐田展隆社長は採用説明会で、同社の強みと課題を明確にし、専門用語を使わず分かりやすい説明を心がけている。
一方、チャイルドハート(神戸市西区)の木田聖子社長は、保育業界の人材不足に危機感を抱く。そのため、同社は「いかに働きやすい環境をつくるか」を重視。「自らの人生設計をする上で会社はあくまでも手段」(木田社長)とし、年1回の無記名アンケートで従業員満足度の向上に努める。心のケアに視点を置いた事例だ。
KTX(愛知県江南市)は福利厚生の充実を学生にアピールする。15年に完全週休2日制を導入するなど、年間休日数の多さを伝える。野田太一社長は「募集要項の休日数を気にする学生は多い」と理由を挙げる。茨城製作所(茨城県日立市)の菊池伯夫社長は「勤務時間に柔軟性を持たせるなどで女性の活躍の場を増やす」と、働き方改革を進める。
藤崎鋲累(東京都足立区)の藤崎進社長は、「年代は問わず定年退職した働き手などの採用も視野に入れている」という。広伸(大阪府門真市)は現在ベトナム人をはじめ外国人の採用で乗り切っている。16年に続き今秋も数人採用予定だ。
今後、一段の人手不足が予想される中、中小は対応策を迫られることになる。一方で、政府は大企業と中小の人材の偏在を解消するにはどうするか、など課題が浮かび上がる。
(2017/6/8 05:00)