[ 機械 ]

【プレス技術】イメージでつかむ「抜き」「曲げ」「絞り」の原理・原則/プレス機械が作用する荷重の変化を「腕立て伏せやバケツ持ち」から考える(上)

(2017/7/7 13:30)

  • 図1 外観から見るプレス機械

 皆さんは、職場に新たに導入されたサーボプレスを見て、社長や職場の先輩たちが、「これは、凄い。自由に動かし、止めることができる。これがあれば、新たな仕事を受けられる」と異口同音に話す光景を見たことはないだろうか(図1)。

 そのとき、疑問として、「外観から見るだけでは、どれがサーボプレスかどうか区別もできない。さらに、自由に動かし、止めることが、なぜ良いのか?また、自由に動かし止めることが、そんなに凄いのか?」と疑問を抱いたことはないだろうか。

 「新しい技術」の導入が行われても、実際のプレス加工では、日々の作業で行われているプレス加工品になる被加工材と金型の間に生じている現象が劇的に変化するものではない。このような状況下でも、新しい加工技術が生み出す「わずかな優位性」を見て活用するためには、現在、行われているプレス加工を支える多くの技術を十分に理解することが大切である。その結果として、いわゆる「ノウハウ(実は、多くは、原理・原則に基づいている)」が生まれるのである。

【塑性加工教育訓練研究所 代表 小渡 邦昭 (こわたり くにあき)】

→【プレス技術】イメージでつかむ「抜き」「曲げ」「絞り」の原理・原則/プレス機械が作用する荷重の変化を「腕立て伏せやバケツ持ち」から考える(下)

簡単な動きを見せるプレス機械

 皆さんの生産現場周辺を見渡すならば、「プレス機械」と言われる機械を多く見ることができる。一見すると、どれも「単純に金型が上下して、製品が沢山できている。」と見て感じているのではないだろうか。このように一言で「プレス機械」と言われるが、実際には、さまざまな形式がある。力を発生させる機構で異なり、大きく①機械式(回転運動を上下運動に変更する機構)、②油圧式(空気や水圧も利用可能)の2つに分けることができる。これらをすべて詳細に説明することは難しいので、今回は、利用されている割合が大きい機械式で「クランク機構」で動くプレス機械の特徴をイメージ化して理解を深めてみよう。以下、「クランク機構で動くプレス機械」を『プレス機械』として進める。

 最初に、外観から見たプレス機械の動きと名称から確認しよう。基本的には、上下する部分を「スライド」と呼ばれ、金型が取り付けられる。スライドが決まった距離を上下直線運動する動きである。

 その際

○スライドが最も高い位置にあるところ=上死点

○スライドが最も低い位置にあるところ=下死点

 という。また、スライド位置を角度で表示することがある。

 その際

○上死点=0 度

○下死点=180 度

 とする時計回りの角度表示も利用する。さらに、上死点と下死点の間を上下運動する距離を「ストローク長さ」と言う(図2)

  • 図2 プレス機械の各部名称と動き

  • 図3 クランクと言えば

「クランク」とは

 ところで、「クランク」とはなんであろうか。最初に「クランク機構」を身近なイメージで考えよう。まずクランク(crank)の意味を確認してみよう(図3)。

 (1)往復運動を回転運動に、またその逆に変える装置…身近では車のエンジンである。つまり、ピストンが燃焼室の爆発による上下運動をタイヤの回転に必要な回転運動に変換するもの。

 (2)手動式映画カメラについていた取手…「クランクイン」「クランクアップ」という映画用語はここからきている。

 (3)自動車教習で練習した道路がジグザグ蛇行している部分

 以上のような多様な意味がある。これらに共通している形状が「ジグザグ」していることが特徴である。だから実際のプレス機械では、図4のように「クランク機構」が組み込まれている。

  • 図4 自動車のクランクとプレス機械

 では、クランクの実際の動きの特徴をイメージしてみる。ここでは、「荷物持ち上げ」で基本機構を考えてみよう。図5のように、荷物運持ち上げから容易にイメージできるように、どの姿勢で持つことが容易で効率的であるどうかは簡単に理解できる。

  • 図5 「クランク特性」と「荷物持ち」

 腕を伸ばした状態で荷物を持つことは、負担が大きい。この状態は、多少追加の荷物が追加された場合にかなりの負担が増えることも実感することができるであろう。追加のおもりが載せられると耐えられず手を下してしまう。

 半面、荷物を頭の上や腕を下げた状態は、手前に突き出して持つよりも負担を感じられないであろう。追加のおもりが載せられても多少我慢できる。このようなイメージは、同じように「クランク機構」の特徴を「腕立て伏せ」のイメージでも考えられる(図6)。

  • 図6 腕立て伏せとクランク

○腕を伸ばした状態では、背中に人が腰かけても多少は耐えられる

○腕を折り曲げた状態では、背中に人が腰かけるならば、かなりの腕力のある人でなければ耐えられない

 このようにして円運動で発生する力を連結棒で結び上下運動するスライドに伝えられる。だから「荷物持ち」や「腕立て伏せ」でイメージすることは、クランク機構の動きがスライドに発生する力(圧力能力)に関係することが理解できる。

 このような動きを実際のプレス機械で考えるならば、実際には

○下死点(プレス加工が行われ範囲)では、大きな荷重に耐えられる

○上死点と下死点の中間位置では、大きな荷重に耐えられない

 となり、中間位置から下死点へ下降するにつれて、より大きな荷重に耐えられることになる。

プレス技術 2017年4月号より

→ MF-Tokyo2017特集

(2017/7/7 13:30)

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