[ トピックス ]
(2017/7/26 05:00)
進む競争と淘汰
最近中国に行くと、鮮やかなオレンジ色や黄色の自転車に乗っている人たちをよく目にする。街中のあちこちに駐輪されているカラフルな大量の自転車にも驚かされる。昨年ごろから中国の自転車シェアリング市場の発展が注目を浴びるようになった。ユーザー数は2015年の約250万人から16年には約1890万人に急速に増え、17年には5000万人以上の規模になると予想される。
市場の拡大に合わせ、既に30社近いベンチャーが参入している。一つだけの都市で勝負するベンチャーもあれば、福建省アモイ市や雲南省麗江市など観光都市を中心に、スマートフォンメーカーのシャオミ傘下で「小白単車」を展開するベンチャーもある。ちなみに、この会社は中国で日本進出を発表している。
乱立が続く中、ユーザー獲得のために無料キャンペーンや価格競争などを強いられ、倒産するベンチャーも現れている。その一方で、自転車シェアリングサービスの元祖といわれるofoとモバイク【表】が2大勢力として固まりつつあり、ベンチャーキャピタルの新たな寵児ともなっている。
ofoとモバイクはいずれも、北京で設立され、ラストワンマイル、すなわち短距離での移動問題の解決を経営ビジョンとして掲げる。車の使用を低減させ、健康なライフスタイルの維持と大気汚染の改善にもつながると主張する。
実際、モバイクはこのビジョンで、「2016年中国社会的企業賞」の受賞候補に入り、社会的企業(ソーシャルエンタプライズ、営利より社会的課題の解決を事業の目的とし、革新性、収益性と持続性を持つ企業)の定義に関する議論を呼んだ。モバイクは果たして社会的課題の解決を優先しているのか疑われ、さらに放置自転車の増加など社会に対する負のインパクトをもたらしていることから、最終的に落選した。
このようにマイナスの影響について議論があるものの、現実には自転車シェアリングのビジネスモデルは確立され、市場も拡大しているため、モバイクもofoも各方面から出資を受けている。直近ではモバイクは17年6月にテンセントなどから6億ドル、ofoは17年7月にアリババなどから7億ドルを調達した。ofoとモバイクの競争は、資金調達先の大手資本間の競争でもある。両社とも潤沢な資金力を使って、激しいシェア争いを展開している。多くの都市に普及するとともに、今や海外進出が図られている。
自転車シェアリング市場における競争が激化しているが、シェアリングブームはますます広がっていくと考えられる。連載第1回でも、配車アプリ「滴滴出行」の急成長の背景には、交通手段のシェア意識の高まりがあると説明した。ofoとモバイクは、「インターネットプラス交通」(インターネットと交通との融合)の進展を促すモデルとして、政府は高く評価している。中国が大いに推し進めている「インターネットプラス」(インターネットをあらゆる産業と融合させる)も追い風となっているのだ。
(隔週水曜日に掲載)
【著者プロフィール】
富士通総研 経済研究所 上級研究員
趙瑋琳(チョウ・イーリン)
79年中国遼寧省生まれ。08年東工大院社会理工学研究科修了(博士〈学術〉)、早大商学学術院総合研究所を経て、12年9月より現職。現在、ユヴァスキュラ大学(フィンランド)のResearch Scholar(研究学者)、静岡県立大グローバル地域センター中国問題研究会メンバー、麗澤大オープンカレッジ講師などを兼任。都市化問題、地域、イノベーションなどのフィールドから中国経済・社会を研究。論文に『中国の「双創」ブームを考える』『中国の都市化―加速、変容と期待』『イノベーションを発展のコンセプトとする中国のゆくえ』など。
(2017/7/26 05:00)