[ オピニオン ]
(2017/8/2 05:00)
夏はペルセウス座流星群はじめ天体ショーが多い季節。酷暑を避け、涼やかな夜風に吹かれて天体観測としゃれ込むのも悪くない。ただ信州・姨(おば)捨の観月ツアーは、ひとあじ違う。
貧しい山村で年老いた親を山に捨て、口減らしをしたという「姥(うば)捨て伝説」も有名だが、姨捨は「田ごとの月」の名勝として知られる。山の中腹から、棚田の水面に映る月を眺める。古くは古今和歌集に詠まれ、江戸期には歌川広重が浮世絵に描いた。
中央本線の塩尻から県北の長野へ向かうJR篠ノ井線は、姨捨駅のスイッチバックで山を越す。月だけでなく、善光寺平を望む雄大な眺望も見どころだ。毎年秋に観月会と俳句大会が開かれるなど、観光資源としても地歩を固めている。
ここに目をつけたJR東日本は、豪華列車「四季島」が立ち寄るようにルートを設定した。周囲に集落がなく、乗降客もまれな駅のプラットホームに展望スポットを整備し、専用の待合ラウンジを設ける充実ぶり。語り部ボランティアやガイドが、地元の言い伝えや景色の解説で、訪れた旅人を歓迎する。
いまや工場の保守灯が夜景として観光資源になる時代。個性的な姨捨の観月も、夏の夜のロマンチックな経験として楽しめそうだ。
(2017/8/2 05:00)