[ オピニオン ]
(2017/8/3 05:00)
政官の産業界に対する不満が強まっているように感じる。簡単に言えば「もっと投資をして、利益を出せ」という不満である。かつての日本を評した「経済一流、政治は三流」という言葉が聞かれなくなって久しいが、今の産業界には元気がないのだろうか。
加計学園問題や稲田朋美前防衛相の辞任などで、安倍晋三政権の支持率が低迷している。ただ産業界トップは「本質的な政策の失敗ではない」(榊原定征経団連会長)と強固な支持を継続している。政財界の関係は基本的には良好だ。
それでも、政府側からチラチラと不満が見えるときもある。たとえば7月に閣議報告した内閣府の2017年度年次経済財政報告(経財白書)。マクロ経済分析の中で、有効求人倍率がバブル期を超える水準になったにもかかわらず、企業の一人あたり賃金の伸びが低いと指摘。その理由として資本装備率の低下と、労使のリスク回避的な姿勢が賃金引き上げを抑制している可能性をあげた。
また、この白書は独自テーマについての第3章で「技術革新」を取り上げ、IoT(モノのインターネット)やビッグデータ、人工知能(AI)、ロボットなどを導入した企業が生産性を向上させたと分析している。分析結果は目新しいものではないが、本来マクロ経済動向を扱う経財白書が、経済産業省などの「ものづくり白書」のようなミクロ分析に踏み込んだことはきわめて異例だ。
いささか乱暴に解釈すれば「企業は設備投資を怠り、賃上げにも熱心ではない。もっと新技術を導入して稼げるようにせよ」というのが経財白書のメッセージであろう。
17年4-6月期の企業業績は、それなりに好調だ。ただ経済政策「アベノミクス」初期段階のような業績の急回復は影をひそめ、頭打ち感が強まっている印象がある。設備投資や研究開発の増加ペースも力強さを欠き、経営者のマインドはどちらかといえば「景気動向の様子見」になっている。
安倍政権にすれば、法人減税や景気回復のための財政出動で産業界を後押ししたにもかかわらず、目立った好況感がないことに不満があるだろう。まして支持率急降下とあって、苛立ちが募っているかもしれない。
大企業に話を聞くと、人口減少局面の国内市場より海外の強化に力を注いでいるが、新規案件も多いことから結果が出るには時間がかかるという声が多い。政府の思惑と企業行動は、必ずしもマッチしていないのだ。
デフレが収束し、経済成長が軌道に乗れば、日本の抱える多くの問題は解決に向かう。そんなことは誰でも分かっている。アベノミクスは政権の高い支持率を背景に成長戦略に挑戦し、それなりに善戦した。しかし4年半を経ても、まだ経営マインドは大きく変わっていない。それは産業界が悪いのか、それとも政策の不足か。少なくとも政界が一方的に不満を持つのは、間違っているように思う。
(加藤正史)
(このコラムは執筆者個人の見解であり、日刊工業新聞社の主張と異なる場合があります)
(2017/8/3 05:00)