[ オピニオン ]
(2017/8/10 05:00)
国立大学の財務基盤強化に向けた規制緩和が大きな展開を見せている。大学発ベンチャー(VB)支援で得た株式・新株予約権の長期保有や、自己資金を原資とする元本保証でない金融商品での資金運用などだ。政府は国立大学法人化後も長く財務関連で慎重姿勢をとってきただけに、新たな動きと注目される。
財政面での規制緩和が示されているのは、文部科学省の「オープンイノベーション共創会議」が7月にまとめた報告書「オープンイノベーションの本格駆動に向けて」だ。法改正が必要なものもあるが、通知で容易に変えられる内容もある。
実際、大学発VBからの株式取得・保有で文科省は、報告書の発表からひと月もたたない8月1日に通知を出した。
これは国立大が施設・設備の貸し出しや技術相談といった大学発VB向けの業務をした場合に、対価として株式を得られるというものだ。これまでは大学からの特許ライセンスの対価に限定されていた。また、その株式も「換金可能になり次第、速やかに売却」とされていたが、業務対価に見合う株価になるまで保有し、売却するといったことができるようになった。
さらに国立大が元本保証でない金融商品で資金運用するケースの規制緩和も、2017年度中の文科省省令改正で進むとみられている。元々は国債など元本保証の商品でしか運用できなかったが、17年度から原資が寄付金であれば社債や投資信託、外貨預金などで運用してよいと変更になっている。
この原資の対象をさらに、土地貸付料や特許料などに拡大することになる。土地を駐車場や商業施設に貸すこと自体、17年度から認められており「土地貸し付けで得た収入を金融商品で運用する」といったことが広がる可能性がある。
国立大は基本的に公的資金で運営されている。そのため単なる財テクなど大学の業務を越えた活動で、税金を元手とする資産を減らすことになってはいけない。そのため04年度の国立大学法人化後も、大学は規制でがんじがらめの状態だった。しかし運営費交付金の削減が続く中、大学の自助努力を促す環境整備をするように政府は変わってきた。
残念ながらこれらは文科系・小規模・単科などの大学には使いづらい方策かもしれない。しかし旧帝大など理工系トップクラスの大学には、大学改革の強力な一手となろう。リスク管理に注意を払いつつ、知の創出に基づく新たな事業活動の展開に期待をしたい。
(山本佳世子)
(このコラムは執筆者個人の見解であり、日刊工業新聞社の主張と異なる場合があります)
(2017/8/10 05:00)