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[ 科学技術・大学 ]
(2017/9/29 05:00)
ノーベル賞の受賞候補と言われる全遺伝情報(ゲノム)を自由に書き換えられる「ゲノム編集」。難病治療など医療分野での応用に期待が高いが、農林水産分野ではイネやトマト、マダイなどですでに成果が出ている。形や性質の改善を妨げる遺伝子をつぶすだけで、外部遺伝子導入を伴わない安心感から、意外に早く消費者が口にする日が来るかもしれない。(編集委員・山本佳世子)
ゲノム編集は遺伝子の狙った部分を高精度で切断する技術。遺伝子切断酵素「クリスパー・キャス9」を使う。作物では特定の形質の遺伝子を切断し、働かなくすることで品種改良する。従来の遺伝子組み換え作物は、農薬耐性など天然の作物にない外来遺伝子を導入するため、消費者の不安が強い。
しかしゲノム編集なら、この問題がクリアできる。突然変異で現れた優れた形質のものを選抜する伝統的手法と同様のため安心で、かつ高効率だ。
医療応用では、倫理上の問題や安全性から実際の導入にはハードルが高いが、農林水産業での活用ならそうした障害は少ないと見られている。
府省連携の支援事業「戦略的イノベーション創造プログラム」(SIP)でも、農林水産業の高度化の一環で、ゲノム編集を応用した成果が出つつある。
農業・食品産業技術総合研究機構では、稲作の低コスト化に向けた「超多収イネ」に取り組む。もみが増え粒が大きくなるよう二つの遺伝子でゲノム編集を実施。2017年度は隔離農場で育てている。
さらに、筑波大学生命環境系の江面(えづら)浩教授らは、リラックス効果や血圧上昇抑制効果がある「γ―アミノ酪酸」(ギャバ)を多く含むトマトの品種開発を進める。
ギャバ生合成酵素の活性中心を覆う“ふた”をゲノム編集で除去。野生型の15倍のギャバを含むトマトを作り出した。江面教授は、「企業もさまざまな品種を持っている」と広がりを期待する。
一方、京都大学大学院農学研究科の木下政人助教らは、高級魚のマダイやトラフグを対象に研究中だ。人工授精卵に、筋肉増加の「ミオスタチン遺伝子」関連部分に働きかける“ゲノム編集ツール液”を注入し、体重が倍近い個体を創出した。「18年度には量産可能な第3世代が得られる見込み」(木下助教)という。
ノーベル賞期待のゲノム編集の基本技術は米国発だが、各作物のターゲット遺伝子は日本も多く持つ。
将来はそれぞれのライセンスを持っての交渉などをすることになりそうだ。
(2017/9/29 05:00)