- トップ
- 科学技術・大学ニュース
- 記事詳細
[ 科学技術・大学 ]
(2017/10/6 05:00)
2017年ノーベル賞の自然科学3賞が出そろった。4年連続の日本人受賞者の誕生はかなわなかったが、受賞テーマであるアインシュタインが約100年前に予言した重力波の初観測や生物の体内時計の仕組みは、宇宙や生命に対する我々の理解を深めた。また、たんぱく質などの立体構造を調べられる「クライオ電子顕微鏡」は、画期的な創薬につながる成果として今後が期待されている。(藤木信穂、冨井哲雄、小寺貴之)
【物理学賞/重力波を初観測−相対性理論証明】
物理学賞は、時空(時間と空間)のゆがみである「重力波」を初めて観測した米重力波望遠鏡LIGO(ライゴ)の観測チームの米研究者3人が受賞する。
アインシュタインの一般相対性理論によれば、質量を持つ物体の回りの時空はゆがむ。重力波は、ブラックホールなど質量の大きい物体が動く際に時空がゆがみ、その変動が波として伝わる現象。
LIGOチームは2015年9月に重力波を初めて観測し、16年2月に発表した。
約3000キロメートル離れた場所にある2台の重力波望遠鏡が、地球から13億光年ほど離れた太陽の約30倍の質量を持つ二つのブラックホールの合体によって生じた重力波を検知した。
この成果は、一般相対性理論の正しさを証明するとともに、重力波という新しい観測手段を手に入れたことを意味する。
「重力波天文学」と呼ぶ学問分野が新しく切り開かれ、光や電波では観測できない新たな天体現象の解明につながると期待されている。
日本も東京大学などが設置した「大型低温重力波望遠鏡」(KAGRA、かぐら)が19年にも本格稼働し、重力波の観測の国際ネットワークに加わることになっており、日本での初観測に期待が集まる。
【生理学医学賞/体内時計の仕組み解明】
生理学医学賞は、生物の生理や行動を決める「体内時計」の仕組みを解明した米国の3人の研究者に贈られる。24時間を1周期とする体内時計は、睡眠のパターンやホルモンの放出、血圧など体の機能を調節する上で重要な機構だ。
研究グループは、突然変異を起こしたショウジョウバエを利用し、体内のリズムに関わる「時計遺伝子」を発見。さらにこの遺伝子の周期的な働きが、自ら作り出したたんぱく質やパートナーとなる遺伝子が作ったたんぱく質によってフィードバックされる仕組み「転写翻訳フィードバックループ」という概念の確立につなげた。
こうした仕組みの解明は、人間の健康や疾患などに関係する生理学的メカニズムを明らかにしたという点で大きな意義を持つ。
体内時計に異常をきたすと睡眠障害や時差ぼけだけでなく、うつ病や高血圧、糖尿病などを引き起こす可能性がある。また「スマートフォンの使用や高齢化などが生体リズムを崩すことが分かってきている」(体内時計にくわしい早稲田大学の柴田重信教授)という指摘もあり、研究の進展がこうした疾患の治療や健康の増進に役立つかもしれない。
【化学賞/クライオ電顕開発−生体分子構造破壊せず計測】
化学賞は、生体内のたんぱく質などをそのまま観察できる「クライオ電子顕微鏡」を開発したスイス、米英の3研究者に贈られる。クライオ電子顕微鏡は試料を氷で包み、生体分子を壊さずに電子線で計測する。たんぱく質を結晶化しないため、生物の体内に存在する形に近い状態で分子構造を決められる。
試料を非晶質な氷薄膜で包む手法や、クライオ電子顕微鏡の2次元画像から3次元の立体構造を構築するソフトウエアが確立し、幅広く使われるようになった。
現在、クライオ電子顕微鏡の計測対象は広がり、脂質膜中の膜たんぱく質やたんぱく質と核酸の複合体など、巨大で複雑な生体分子を構造決定できる。分子構造が次々に明らかにされデータベース化されている。たんぱく質の構造がわかると、その阻害剤など医薬品となる化合物を設計できる。
計測分野での技術革新は大きな影響力をもつ。クライオ電子顕微鏡は、生化学から創薬まで生命科学を支える基盤技術となった。
(2017/10/6 05:00)