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(2017/11/7 05:00)
ウィーン発
2017年11月06日
自動運転車や電気自動車の開発競争が激化する中、スロベニアでは巨大ショッピングモールを自動運転の試験設備(テストベッド)として利用するプロジェクトの2018年稼働を目指している。自動運転「レベル5」に対応するテストベッドには、関連企業が拠点を設置しつつあり、日本企業進出への期待も大きい。
年間訪問者数2,100万の巨大複合施設で実験
スロベニアは、四国ほどの面積に約200万の人口を抱える小さな国だが、旧ユーゴスラビア時代に工業地域として発展した。
新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は2016年11月に、スロベニア政府とスマートコミュニティー実証事業の覚書を締結した。実証事業のうちの1つが、首都リュブリャナの巨大ショッピングモールにスマートグリッド技術を導入するプロジェクトだ。
実際に導入実験が行われるショッピングモール「BTCシティー」は、スロベニアの不動産企業BTCが運営し、店舗に加え各種スポーツ競技場や劇場など文化施設、オフィスビル、起業支援施設、ホテルなど複合的な機能を持つ。47万5,000平方メートルの広大な同モールには450店舗が入居、年間訪問者数は2,100万人、敷地内道路の総延長は11キロ、敷地内への自動車の1日の入場数は3万8,000台で、8,500台分の駐車場を有する。
発展の3本柱はスマートグリッド、スマートシティーと自動運転テストベッド
BTCは、スマートグリッド技術の導入と並行し、ビッグデータを使ってさまざまなサービスが提供されるスマートシティーとして、また、自動車の完全自動運転のテストベッドとしてショッピングモールを発展させる計画だ。自動車や人の行き来がある広大な敷地内の道路や駐車場をテストベッドとして活用する。自動運転に取り組む米国のIBMやマイクロソフト、ドイツのBMWが既に同モールに入居しているほか、韓国の自動車企業も拠点を構える予定だ。日本企業の進出への期待も大きい。
BTC子会社のAVリビング・ラボが運営する自動運転テストベッドでは、政府の支援の下、ショッピングモール内で「レベル5」(範囲限定なし、ドライバー支援なしの完全自動運転)の走行実験が可能となる。充電にはスマートグリッドを活用し、人工知能による支援も受けることができる。他国に既にある完全自動運転のテストベッドは、大学の研究所や軍の試験場跡地などに造られた、実際の交通がなく張りぼての建物の間を通る道路を走行するような実験場が多いが、ここでは人と車が行き来する「本物」であることが売りだ。
同社のダニエル・アブダジッチ社長によると、そこでは特別な交通規則に基づき、実験を行う企業は系列の保険会社を通じて保険をかけ、BTCシティーの計測器や監視カメラでデータを取得しながら実験を行う。トラブルがあった場合は警察と協力して原因を特定し、必要に応じて保険金を円滑に支払うなど、行政や関連企業の協力も得ながらリスクを最小化する環境を整え、2018年4月の稼働を目指すという。
具体的には、第1段階で一般人がいない敷地内の物流施設が集まるエリアで実験。問題がないことを確認した後、第2段階で人がいない夜間にショッピングモールでの走行に範囲を広げる。最終的に昼間の通常の環境下で実験するが、まずは人が乗った状態で走行し、完全自動運転に移行していく。実験する企業と秘密保持協定を締結し、協議しながら段階的に進めていき、企業のニーズに柔軟に対応するという。
ビッグデータの実験場、スタートアップ支援も
アブダジッチ社長は、BTCシティーには各種店舗やレクリエーション施設も含めて多様な入居者がさまざまな活動を行っていることから、スマートシティーやIoT関連企業には、同ショッピングモールをビッグデータの実験場としても使ってほしいと語る。BTCでは、ショッピングモールをスマートシティーに発展させていく計画だ。
また、テナントであるスタートアップ支援企業のABCアクセラレーターのインキュベーション施設には、自動運転関連の米国ベンチャー企業も入居している。なお、ABCは2016年にシリコンバレーとミュンヘンにも進出を果たし、次のターゲットは日本だという。
(阿部聡)
(スロベニア)
(2017/11/7 05:00)