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(2017/11/19 07:00)
原子炉内で溶け落ちた核燃料などが冷えて固まった燃料デブリ。東京電力・福島第一原子力発電所の廃炉では、放射線を帯びる燃料デブリを安全かつ適切に取り出すことが求められている。廃炉作業でも特に難しいとされる燃料デブリの回収について、技術開発に協力して取り組んでいるのが、日立GEニュークリア・エナジー(茨城県日立市、久米正社長、0294・22・1000)、スギノマシン(富山県魚津市、杉野太加良社長、0765・24・5111)の両社だ。人が入れない限られた空間、さらに障害物が多い原子炉の中で、燃料デブリをどう取り出すか、両社は試行錯誤している。
ウォータージェット加工機も活用
政府がまとめた最新の廃炉作業に関する工程表では、燃料デブリの回収について、原子炉格納容器を水で満たさない「気中工法」を軸にすることが決まっている。さらに、2021年内に福島第一原発1、2、3号機のいずれかで燃料デブリの取り出しを始める計画だ。両社はそれまでに技術確立を目指す。
富山県滑川市にあるスギノマシンの早月事業所。ここに高さ10メートル、内径4・8メートルの原子炉圧力容器(RPV)のモックアップ(模型)がある。福島第一原発1号機の原子炉格納容器の中にあるRPVの一部を模して作られ、これを使い、日立GEニュークリア・エナジーとスギノマシンの技術者たちが実験を繰り返している。
両社が研究しているのは、RPV内の燃料デブリを取り出すための装置とその使い方だ。日立GEニュークリア・エナジー原子力設計部の黒澤孝一技術参事によると、両社が採用したのは、RPVを密閉する役割を果たす「共通装置」と、密閉されたRPV内で作業するためのツールを備えた「個別装置」を組み合わせて使う方式。共通装置を空気とともに容器の上から押し込み、共通装置の外周部に張り巡らせた無数の板バネで固定・密封。その上で、共通装置に装着した個別装置のツールを使って容器内の燃料デブリを取り出す仕組みだ。
個別装置については、フライス加工機をはじめ、さまざまツールを取り付けたものを用意し、「燃料デブリを切削したり運び出したりなど、状況に応じて最適なものを選ぶようにする」(黒澤参事)。超高圧の水流を使って対象物を加工するウォータージェット加工機も、選択できるツールの一つだ。この加工機にノウハウがあるスギノマシンの酒井英明執行役員は「ウォータージェット加工機は反動がほとんどなく、駆動系に剛性を持たせる必要があまりない。装置を小さくでき、取り扱いやすい利点がある」という。
削った燃料デブリをつかむアーム型ロボットの実験も進めている。3Dスキャナーで周囲の障害物の位置や形を把握し、障害物との衝突を避けて動けるようにする。ロボットについては、圧力容器内でも、24時間稼働で約40日動かせるよう通常の約1000倍の耐放射線性を持たせている。
過酷な環境にも耐えうる装置を追求
目下の懸念は、放射線の充満する過酷な環境下で、3Dスキャナーで使うカメラがすぐに壊れてしまうこと。ロボットそれ自体には高い耐放射性があっても、カメラに耐性がないためだ。こうした壊れやすい部品については簡単に交換できるようにし、装置全体を長時間の作業に耐えられるよう研究を重ねている。
個別装置に搭載するウォータージェット加工機についても厄介な部分がある。この加工機は硬度の高い物でも切れるよう水に研磨材を混ぜるが、そこで飛び散った液体をそのままにしておくと、「液体が固まって場所をふさぐといった“悪さ”をするおそれがある」(酒井執行役員)。
そのため、スギノマシンは液体を加工物の下で受け止め、それを吸い取り、飛び散るのを抑える技術の開発を進めている。これに併せて、研磨剤そのものを使わずに水だけで切る技術の研究にも取り組んでおり、酒井執行役員は「(燃料デブリの取り出しを始める予定の)21年にぜひ間に合わせたい」と言葉に力を込める。日立GEニュークリア・エナジー、スギノマシンの両社の技術者たちは挑戦を続けている。
(2017/11/19 07:00)