[ オピニオン ]
(2017/12/4 05:00)
師走は街の装いを一変させる。色とりどりのクリスマスイルミネーションや年末の飾り付けは、見る者に特別の感慨を抱かせる。年の瀬を迎えた市井の人の気持ちを、画家の東山魁夷は「去りゆく年への心残りと来る年へのささやかな期待」と著書の中でつづっている。
街の喧騒(けんそう)とは裏腹に、静寂の中で灯がともり続ける街もある。東京・霞が関。2018年度の税制改正大綱や予算編成に向けて、官庁街は不夜城と化す。
賃上げ企業の法人税軽減などが焦点の来年の税制改正。議論が佳境を迎える中、ひっそりと不帰の客になった人がいる。経団連元常務理事の阿部泰久さん。62歳だった。
長年にわたり税制や独占禁止法といった法制度を担当。企業税制では財務官僚も一目置く存在だった。“税の生き字引”として産業界だけでなく永田町にも名をはせた。歯に衣(きぬ)着せぬ口調とは対照的に内面は実にシャイ。独特の風貌も相まって、多くの財界人に愛されてきた。
阿部さんは決してクリスマスイルミネーションのような派手な存在ではなかったが、産業界にとって“いぶし銀”の光を放つ職人だった。師走、丸顔に浮かぶ汗を拭きつつ財務省の廊下を走り回る阿部さんの姿を、もう一度見たかった。
(2017/12/4 05:00)