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(2017/12/6 05:00)
世界の有名なブランドであれば、中国ではその「山寨」版(模倣、パクリの意味)が必ずあるといわれてきた。山寨電子製品から海賊版の各種ソフトや書籍に至るまで、知的財産権を保護する意識が低い中国は、かつては「山寨大国」だった。近年、イノベーションの創出には知的財産権関連制度の整備が欠かせないとの認識が高まっている。また、「自主創新」(独自のイノベーション)を追い求めるには、知的財産権を強化し、山寨の汚名を返上しなければならないと叫ばれるようにもなった。
ファーウェイとZTE、特許申請で世界首位争い
そのための重要な一歩として、中国は特許出願に力を入れている。中国国内の特許出願件数は、1995年の4万1881件から2015年には159万6977件に急増した。世界知的所有権機関(World Intellectual Property Organization、WIPO)によれば、2016年の国別特許出願件数ランキングでは、トップと2位が米国(5万6595件)と日本(4万5239件)で、中国が3位(4万3168件)となり、2000年代に入ってから、2桁の伸びを続けている。中国は、2020年までに国際特許出願件数を世界5位以内にするとの目標を打ち出したが、それは既に実現されている。
また、企業別の国際特許出願件数ランキングをみると、1位は2015年も2016年も中国の企業だった。深圳を拠点として活動している情報通信企業のファーウェイ(Huawei、華為)とゼットティーイー(ZTE、中興)で、両社がつばぜり合いを演じている。特筆したいのは、いち早くイノベーションの重要性を認識し、年間売上高の10%以上を研究・開発(R&D)に投入し続けているファーウェイである。
ファーウェイの2016年のR&D費用は764億元(約115億5000万ドル)で、はじめて100億ドルを突破し、売上高(5216億元)の14.6%を占めた。欧州委員会が公開した「2016世界企業R&D支出額ランキング」では、ファーウェイは8位とトップテンにランクインした唯一の中国企業である。R&Dへの注力の成果は特許出願にも表れ、特許出願件数において中国企業をけん引している。
地方政府も企業後押し
中国における特許件数の増加の背景には、特許の重要性に対する認識の高まりと地方政府の支援政策がある。特許の出願件数を増やすために、各地方政府は特許を申請する企業に補助金を出している。中国国内の専門家によると、特許の出願件数が地方政府の評価基準の一つとなり、それが件数の拡大につながっているという。
こうして特許大国になった中国は、2015年に知的財産権強国を目指すと宣言した。量的拡大から質の重視に舵を切り替えるのが狙いだが、直面している課題は山積している。ここでは特に、3つの課題を挙げたい。
応用とブランド力が課題
まず、質の重視よりは量的拡大のほうが具体的で、達成しやすい目標であるため、地方政府の姿勢転換は遅々として進まないことがある。特許の質を測る分かりやすい基準の構築が求められている。次に、特許の応用と技術移転については、中国の状況は謎に包まれていることだ。研究機関や企業にとっては、特許の権利を維持し、有効に使っていくための費用が必要で、コストがかさむ。そのため、政府は特許の利用を促しているが、実際どれほど応用されているか把握されていない。
3つ目は中国企業のブランド力の向上が問われていることである。企業の特許出願件数は伸びているが、中国企業全体のブランド力は依然として低い。アメリカ・インターブランド社が公開した「世界企業ブランドランキング2016」上位100社に、ランクインしている中国企業は2社のみだ。それはファーウェイ(72位)とパソコンメーカーのレノボ(99位)である。
繰り返しになるが、中国の「特許大国」から「知的財産権強国」への道のりは険しく、多くの課題をクリアしていく必要がある。
(隔週水曜日に掲載)
【著者プロフィール】
富士通総研 経済研究所 上級研究員
趙瑋琳(チョウ・イーリン)
79年中国遼寧省生まれ。08年東工大院社会理工学研究科修了(博士〈学術〉)、早大商学学術院総合研究所を経て、12年9月より現職。現在、ユヴァスキュラ大学(フィンランド)のResearch Scholar(研究学者)、静岡県立大グローバル地域センター中国問題研究会メンバー、麗澤大オープンカレッジ講師などを兼任。都市化問題、地域、イノベーションなどのフィールドから中国経済・社会を研究。論文に『中国の「双創」ブームを考える』『中国の都市化―加速、変容と期待』『イノベーションを発展のコンセプトとする中国のゆくえ』など。
(2017/12/6 05:00)