[ 政治・経済 ]
(2017/12/7 12:00)
歴史的転換、中東和平交渉は一層困難に
【ワシントン時事】トランプ米大統領は6日、ホワイトハウスで演説し、エルサレムをイスラエルの首都と認め、商都テルアビブにある米大使館の移転を指示したと正式に発表した。歴代大統領が堅持した米方針の歴史的転換で、米国が仲介役を務めてきた中東和平交渉の再開は一層困難になった。パレスチナやアラブ諸国は反発を強めており、中東地域の治安情勢が悪化する恐れもある。
選挙公約に首都移転を掲げてきたトランプ氏は「歴代大統領は、移転延期が和平プロセスを進展させると信じてきたが、和平合意に全く近づいていない」と語るとともに、エルサレムにイスラエル国会や最高裁、首相官邸があることを列挙し、エルサレムを首都と認める正当性を強調した。その上でパレスチナ紛争の「新しいアプローチの始まりだ」と宣言した。
一方で「米国は和平合意の推進に深く関与し続ける」と述べ、2014年4月以降中断している和平交渉の再開に向けた努力を続ける意向も示した。「エルサレムの地位」を含む和平交渉について、特定の態度は取らないと語り、パレスチナが東エルサレムを将来の首都にする余地を残した形だ。
ただ、パレスチナ国家樹立を認める「2国家共存」については「イスラエルとパレスチナが同意すれば支援する」と述べるにとどめ、これまでのあいまいな態度を維持した。イスラエル寄りの姿勢を鮮明にしたトランプ政権の仲介をパレスチナが受け入れる可能性は低い。
トランプ氏は、国務省に対して大使館移転に向けた手続きを開始するよう指示した。新大使館の設計や計画の手続きを直ちに開始するが、期限などは示しておらず、当面は移転しないとみられる。米政府当局者は「移転には数年かかる」と指摘した。
トランプ氏はこのほか、ペンス副大統領が数日中に中東を訪問し、過激主義を打破する米国の意思を再確認すると発表した。
「和平努力台無し」―パレスチナ、イスラエルは「歴史的」と歓迎
【エルサレム時事】トランプ米大統領がエルサレムをイスラエルの首都と承認したと発表したことを受け、東エルサレムを首都とする国家樹立を目指しているパレスチナ自治政府のアッバス議長は6日、演説で「和平に向けた努力をすべて台無しにした」と強く批判した。一方、エルサレムを「不可分で永遠の首都」と主張するイスラエルは「歴史的な日」(ネタニヤフ首相)だと歓迎。イスラエルとパレスチナの和平交渉の再開は一層遠のいた。
アッバス議長は演説で「容認できない措置」であり、「米国が和平プロセスの仲介役から退くという宣言だ」と反発。その上で地域の過激派を助長することになると警告した。
パレスチナ自治区ガザを実効支配してきたイスラム原理主義組織ハマスは、「地域における米国の利益に対する地獄の扉を開けた」と「宣戦布告」した。
一方、ネタニヤフ首相は動画メッセージで「トランプ氏の勇敢な正しい決断に心から感謝している」と称賛し、「和平促進に向けたトランプ氏の取り組みを反映するものだ」と持ち上げた。ただ「聖地の現状にいかなる変化ももたらさない」と強調し、デモや暴動を呼び掛けているパレスチナ側をけん制した。
エルサレム帰属、一方的措置に「反対」―国連総長
【ニューヨーク時事】国連のグテレス事務総長は6日、エルサレムをイスラエルの首都と承認したトランプ米大統領の発表を受けて声明を出し、「エルサレム(の帰属)は、2当事者間の直接交渉で解決されなければならない最終地位に関する問題だ」という立場を明らかにした。その上で「(イスラエルとパレスチナの)『2国家共存』に代わるものはない」と訴えた。
グテレス氏は「事務総長就任以来、イスラエルとパレスチナの和平の見通しを危うくするいかなる一方的措置にも反対してきた」と表明。「持続的な和平実現へ(双方の)指導者が意味ある交渉に戻れるよう全力を尽くす」と強調した。
一方、国連安保理理事国の英仏伊、ボリビア、エジプト、セネガル、スウェーデン、ウルグアイの8カ国は6日、トランプ氏の発表を受け、安保理緊急会合を公開で開くよう議長国の日本に要請した。会合は8日に開かれる。これに先立ち、ボリビア国連大使は記者団に「(エルサレムの首都承認は)和平プロセスを損なうのみならず、国際的な平和と安全に対する脅威だ」と述べた。
米政権に追従せず―英首相
【ロンドン時事】メイ英首相は6日、声明を出し、エルサレムをイスラエルの首都と認めたトランプ米大統領の発表に対し「賛成できない」と表明した。首相は「地域の平和の前途という観点から、それ(米決定)は助けにならない」と述べ、トランプ政権に追従しない考えを強調した。
首相は「エルサレムの地位はイスラエルとパレスチナ間の交渉による解決の中で決められるべきだ」とする英国の従来方針に変更がないことを確認。「エルサレムは最終的にイスラエルとパレスチナ国家の共通の首都となるべきだ」と指摘した。
米決定に深刻な懸念―EU、仏独も支持せず
【ブリュッセル時事】エルサレムをイスラエルの首都と承認したトランプ米大統領の発表に対し、欧州連合(EU)内では6日、「深刻な懸念」(モゲリーニ外交安全保障上級代表)を示す声が相次いだ。EUと米国の関係はトランプ政権発足時からぎくしゃくしており、今回のトランプ氏の決定を受けて溝が一段と広がった格好だ。
モゲリーニ氏は声明で、イスラエルとパレスチナの双方が共存する「2国家解決」が、持続的な平和と安全保障をもたらす「唯一の現実的な策だ」と表明した。
モゲリーニ氏は、トランプ氏の発表前にパレスチナ自治政府のアッバス議長と電話会談し、「エルサレムの最終的な地位は交渉を通じて決めるべきだ」と改めて主張。一方、議長に対し「反応の抑制」を呼び掛け、パレスチナ側の冷静な対応を求めた。
一方、フランスのマクロン大統領はツイッターに「米国の決定は認められない」と投稿。その上で「融和と対話を優先しなければならない」と訴えた。ドイツ政府報道官もトランプ氏の決定を「支持しない」と語った。
エルサレム首都承認、賛否示さず―官房長官
菅義偉官房長官は7日の記者会見で、トランプ米大統領がエルサレムをイスラエルの首都と認め、テルアビブにある米大使館の移転を指示したことについて「米国が発表したばかりだ」として賛否を明言しなかった。その上で「現在、発表内容や米国の今後の具体的な対応を精査、分析している。中東和平への影響も含め、大きな関心を持って動向を注視していきたい」と語った。(時事)
(2017/12/7 12:00)