[ オピニオン ]
(2017/12/28 05:00)
「名も知らぬ遠き島より 流れ寄る椰子(やし)の実一つ 故郷(ふるさと)の岸を離れて 汝(なれ)はそも波に幾月」(島崎藤村『椰子の実』)。島国・日本にとって、いにしえの海岸は異国へ思いを巡らす趣のある場所だった。
海岸線の総延長は実に3万5000キロメートル余り。地球外周の約85%に相当する長さがある。時代の変遷で人工化が進んだとはいえ、名所といわれるような美しい景観を保った自然の海岸が各地に残り、人々を引きつける。
その風情を台無しにしてしまうのが漂着する海洋ゴミ。漁業で使われた網や浮き、海外の河川から流出したプラスチック容器などが大量に漂着するようになり、海岸を管理する地方自治体を悩ませる。
国は「海岸漂着物処理推進法」に基づき、回収・処理を財政支援するが、北朝鮮籍とみられる木造船の大量漂着は想定外の事態だ。その数は今年、100隻近くに上る。所管の環境省は、地域住民の不安を払拭(ふっしょく)する意味合いもあり、漂着木造船に限って全額国費負担による処理を決めた。
いにしえなら、打ち寄せられた木片は貴重な燃料にもなった。とはいえ、昨今の北朝鮮情勢を考えると市井の人々が近づけるはずもない。かの国は“名も知らぬ遠き島”より、はるかに遠い。
(2017/12/28 05:00)