[ オピニオン ]
(2018/1/18 05:00)
米国のIT動向を見極めるのに、インドのベンガルールの動きを探るのが大事とよく言われる。南部の高原都市であるベンガルールは、旧称のバンガロールの方が馴染み深いという方も多いが、米国企業が1980年代に、米国との時差を利用し、インド人プログラマーを使って24時間連続でコンピュータープログラムづくりなどを始めたのが起点となった。
それを契機に、インドでITサービスの会社が続々と登場し、米国企業のIT関連業務を受注。インド国内で行うoff-shoreと同時に、米国の顧客先に技術者を派遣して業務行うon- shoreの双方のビジネスを立ち上げ、米国のIT産業台頭の下支え役を担ってきている。日本企業もベンガルールにだいぶ遅れて現地法人を設立した。近年躍進が目覚ましい、中国のファーウェイ(華為)も1999年、この地に中国国外初のR&Dセンターを設立し、今日では大規模なR&Dキャンパスになっている。
米国での、インド人IT技術者の活用を巡っては、トランプ大統領が、外国人技術者向け査証(ビザ)であるH-1Bの改革に乗り出し、そのビザ制度の最大の恩恵者であるインドITサービス業界を震撼させている。
H-1B問題だけでなく、人工知能(AI)の普及によるプログラミングの自動化も、多くの人材を抱えるインドのITサービス業界に変革を迫っている。同業界は、AI、機械学習、ビッグデータ、複合的なデータ解析といった世界のIT業界が直面する課題に向けた人材開発、新しいビジネスモデルの構築に動く。昨年来、インドITサービス業界の首脳は、従業員や学生に技能・技術の高度化、reskilling(再教育)を説き続けている。
こうした中、ベンガルールに本社を置く、インドの大手ITベンダー、ウィプロが新手のビジネスモデルを打ち出した。ウィプロが買収した米子会社、トップコーダー(ボストン)が17年12月12日に発表した「Hybrid Crowd(ハイブリッド・クラウド)」がそれだ。トップコーダーには、ITを中心とした、官民や特定技術者団体など所属の技術者やフリーランサー約120万人が登録しているとされる。
登録はグローバルで行え、対象分野は品質保証、IoT(モノのインターネット)、認知科学、ブロックチェーンなど。そうした分野のIT技術者などにプロジェクト業務への参加を呼びかけ、業務を委託するプラットフォーム(基盤)を構築している。いわゆる不特定多数の人に業務を委託するcrowd sourcing(クラウドソーシング)を運営する。これ以外に技術コンペも実施し、技術者の格付けまで行っている。
十数年前、ウィプロ会長のA・プレムジー氏に都内でインタビューした折、1945年設立の同社について、同会長は「当初は八百屋、80年代に入りパソコン事業に参入し、その後、ITサービスに業態を変えた」と語っていた。トップコーダー買収は、ウィプロが技術革新のパラダイムシフトを感知し、業態変革の模索を始めていた証左ともといえる。それは、オープンイノベーションの動きとも同調する。
ウィプロの最高技術責任者(CTO)である、K・R・サンジブ氏は「Hybrid Crowdは顧客担当チームが広範な視野に基づいてデジタルサービスを提供でき、顧客からのジャストインタイムでの要求にも応えられる。さらに、デジタル技術の構造的な変革に直面する技術者に、新しい技能・技術を習得する機会も与える」と強調する。ウィプロではそれに加えて、社内のcrowd sourcingプラットフォームであるTopGearにも役立つと見ている。
ウィプロのHybrid Crowdについて、インド経済紙Economic Timesは、「3-4年後には重視せざるを得なくなるだろう」といった見方を紹介している。配車サービスやライドシェアリング大手のウーバーになぞらえて「IT人材のウーバー化」という指摘もある。
同紙によると、トランプ大統領の移民規制を受けて、米国企業では、米国とインドにIT業務の拠点を集約する動きが目立っている、という。
(中村悦二)
(2018/1/18 05:00)