[ オピニオン ]
(2018/2/15 05:00)
働き方改革の必要性に異論を唱えるつもりはない。ただ、ルール整備や運用を現場に丸投げするだけでは施策の実効性は期待できない。とりわけ、経営資源が限られる中小企業には、きめ細かい後押しが必要だ。
厚生労働省は、今通常国会に提出する働き方改革関連法案のうち、残業時間の上限規制と非正規社員の待遇改善に向けた「同一労働同一賃金」について、中小企業の施行を当初案より1年延期する方針を固めた。
同法案は2017年10月の衆院選の影響で法案提出が遅れている。当初案では、残業上限規制の導入時期を19年4月、同一労働同一賃金の適用は大企業が19年4月、中小企業は20年4月と定めていたが、一部の措置の法律の施行は延期される見通しだ。準備に時間がないという中小企業の訴えに配慮した形だ。
だが、中小の懸念はこれで解消されるわけでなく、そもそも制度が分かりにくいことを不安視する声が強い。
そのひとつが「同一労働同一賃金」だ。日本商工会議所が17年11月から18年1月中旬にかけて全国の2881社を対象に実施した調査では、制度のよりどころとなるガイドラインに対し「グレーゾーンが多く、どの程度の待遇差が不合理にあたるのか理解できない」「現場で判断できるレベルまで明確化してほしい」との意見が相次いだ。
問題のガイドライン案は、正社員と非正規社員の待遇差がどのような場合に不合理とされるのか事例で示したもので、法律の施行と同時に効力を持つことになる。福利厚生施設の利用や転勤者用の社宅、慶弔休暇などは待遇差を認めず同一の利用を求める一方、基本給や賞与については経験や能力による差を認めている。ただ、容認される待遇差としてガイドラインが示す具体例は、一般論の域を出ておらず、個々の企業で解釈が異なることが懸念される。
もとより充実した法務部門を抱える大手企業と異なり、ただでさえ人手不足で繁忙を極める中小経営者に、このガイドラインを読み解くことを強いるのは酷である。待遇差の是正がどこまで進むかは労使の協議に委ねられるとされるものの、現場でのトラブル増加や訴訟が増加することを危惧する声もある。
中小企業は働き方改革に背を向けているのではない。むしろ従業員の処遇改善を積極的に進めなければ人材が確保できないとの焦燥感を抱く。こうした思いに応えるためにも中小企業との日常的な接点の深い自治体や経営支援機関は、経営者に成り代わりガイドラインを読み解き、個別具体的な相談に応じられる準備を早急に進め、安心感につなげたい。
安倍晋三首相は、「日本から非正規という言葉を一掃する」と意気込む。だが、働き方改革は一朝一夕にはならず。かけ声だけで社会は変わらない。
(神崎明子)
(2018/2/15 05:00)