[ オピニオン ]

【電子版】論説室から/平昌五輪で気になる、日本の”嫌悪”フィルター

(2018/2/22 05:00)

 韓国・平昌で開かれている冬季五輪で日本選手団が健闘し、好調にメダルを積み上げている。1998年長野大会の金5個には届かないようだが、過去最多のメダル獲得はテレビ観戦だけでも大いに国民を引きつける。

 われわれ産業マスコミからすれば、競技そのものはメーンの取材対象ではない。それでも平昌に関心が集まる中で、スポーツ界以外の人から日韓関係にまつわる話を聞く機会が多い。それらの中で考えさせられたこと、気になったことがあった。

 日本の平昌大会への評価は、あまり高くない。会場の寒さや交通機関の不便さなどに関わるネガティブな報道が目立つ。「極寒の地なのに屋根も作らない」といった批判も聞かれる。

 実際に、どれだけ酷い状況なのかは現地でなければ分からない。しかし長野を含めて、歴代の五輪の開会式で屋根なしは珍しくない。また次の2020年東京五輪のメーン会場となる新・国立競技場は経費削減で屋根は観客席の部分のみ。酷暑や台風が開会式を脅かす懸念はある。あまり気楽に隣国の大会を批判するのは、どうかと思う。

 施設や交通とは逆に、あまり聞かれないのがホスト国である韓国へのプラスの評価だ。開会式の演出は技術力を感じる先進的なものだった。それ以上に印象が強いのは競技の成績だ。韓国の冬季五輪のメダルと言えばスピードスケートのショートトラックが突出していて、ほぼ9割を占める。しかし、今大会では経験の乏しいそり競技でもメダルを獲得するなど、ウインタースポーツの幅を大きく広げた。開催地の競技レベル押し上げ効果が顕著なのである。

 2020東京五輪の組織委員会の関係者は「開会式も成績も、事務局は非常に刺激をうけている」と話す。つまり外交辞令ではなく、ホスト国である韓国は“予想以上によくやっている”のではないだろうか。

 大会前、神戸大学の木村幹教授が日本記者クラブで会見し、日韓関係を分析した。五輪と直接の関係はないが、その内容は非常に刺激的だった。多くの日本メディアが「日韓関係の最大の懸案」と考えている慰安婦問題は、韓国の文在寅大統領の支持率に影響していない。むしろ北朝鮮との合同チームで開会式に韓国国旗が登場しないと決まったことの方が、支持率を大きく下げた。同教授は対日外交が支持率に与える影響は「観測不能なレベル」でしかないという。

 日本側では安倍晋三首相が韓国に対して強い態度に出ており、これが国民から支持されている。産業界も首相の方針に一定の理解を示している。

 政治とは無縁なはずの五輪の報道を見ていて、ひょっとしたら日本側の“嫌悪”フィルターの方が、韓国の“嫌日”フィルターより分厚いのではないかと感じた。もしそれが事実なら、日本側のメディアの一員として、あまりうれしくない。

 産業界では、韓国と取引の大きな企業から「日韓の経済関係は活発で、互いの信頼も変わらない」と聞く。次は“嫌悪”フィルターを意識して外して、話を聞いてみようと思う。

(加藤正史)

(このコラムは執筆者個人の見解であり、日刊工業新聞社の主張と異なる場合があります)

(2018/2/22 05:00)

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