[ ICT ]
(2018/3/9 05:00)
人工知能(AI)の活用に欠かせないのはデータだが、企業において実際に使えるデータは意外に少ないようだ。では、どうすればよいのか。そんな課題にIBMが解決法を打ち出した。
データ整備に向け「IBM Watson Data Platform」提供
「企業向けのAIでは、お客様自体のデータ整備が最大の課題だと再認識したので、新たな解決法を提供したい」――。日本IBMの吉崎敏文執行役員ワトソン&クラウドプラットフォーム事業部長は、同社が先頃開いたクラウド事業と同社のAI「ワトソン」事業の戦略に関する記者説明会でこう強調した。(関連記事参照)
吉崎氏によると、ワトソンは2016年6月に日本語版を提供開始して以来、業種別のパッケージソリューションが45個を数え、【図1】に示すように、適用領域が顧客接点から業務プロセス、そして最近では新しいサービスや製品に組み込まれるケースも増えているという。これらの事例が実証実験などではなく、すべて本稼働しているのが、ワトソンの強みとなっている。国内の導入企業数も2017年秋の時点では350社以上としていたが、今回は「4桁を目指している」と表現。順調に顧客が拡大していることを示してみせた。
ただ、「本稼働の事例が数多くあるからこそ」と前置きして同氏が語ったのが、冒頭のコメントである。具体的には、「企業においてデータ自体は大量にあるものの、AI向けにすぐに利用可能な整備されたデータは30%以下というのが、私たちの実感だ」という。
では、AI時代におけるデータ活用のあるべき姿とはどのようなものか。これに対し、吉崎氏が示したのが【図2】である。ポイントはデータソースがいろいろあり、利用する人もデータサイエンティストやビジネスアナリストなどさまざまな立場がある中で、企業全体でデータを保管・保護・利用・分析、そして新たな洞察を獲得できるような仕組みが求められるということである。
それを実現できるのが、同社が今回新たに発表した「IBM Watson Data Platform」(以下、ワトソン・データ・プラットフォーム)である。
AI活用企業の最大の課題はデータ整備
吉崎氏によると、ワトソン・データ・プラットフォームは「IBM Cloud上で稼働する高度なデータ分析基盤であり、データをワトソンに効率的に提供できるよう整備するためのデータ・プラットフォーム」という。その構造は【図3】のようになっている。
今回の発表では、その主要機能であるデータ分析のための「Data Science Experience(DSX)」、DSXでの分析に向けてデータを加工する「Data Refinery」、データを可視化してダッシュボードを作成する「Dynamic Dashboard」、データなどの編成を行う「Data Catalog」が利用できることを強調。「AI活用のデータ整備に向けてこれだけの環境を提供しているのは当社だけだと自負している」と同氏は胸を張った。
なお、ワトソン・データ・プラットフォームによるデータ活用の流れとしては、【図4】に示した形となっている。
さて、改めて今回、日本IBMがワトソン・データ・プラットフォームを提供することにした理由を挙げると、吉崎氏の冒頭のコメントにあるように「お客様自体のデータ整備が最大の課題だと再認識した」からだ。これは取りも直さず、ワトソンだけでなく「企業向けのAI」のすべてに当てはまることである。
AIを活用するためにデータをどのように整備していくか。AIを活用したい企業は改めてそのことを十分に踏まえておく必要があるだろう。
(隔週金曜日に掲載)
【著者プロフィール】
松岡 功(まつおか・いさお)
フリージャーナリストとして「ビジネス」「マネジメント」「IT」の3分野をテーマに、複数のメディアでコラムや解説記事を執筆中。電波新聞社、日刊工業新聞社などで記者およびITビジネス系月刊誌の編集長を歴任後、フリーに。危機管理コンサルティング会社が行うメディアトレーニングのアドバイザーも務める。主な著書に『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。1957年生まれ、大阪府出身。
(2018/3/9 05:00)