[ ICT ]
(2018/2/23 05:00)
人工知能(AI)関連サービスを提供するグローバルベンダーといえば、グーグルやアマゾンなどが一般的に知られているが、エンタープライズソフトベンダーの“2強”といわれるSAPとオラクルも着々とAI戦略を推し進めている。その差別化ポイントはどこにあるのか。
SAPがAIを装備した「SAP Leonardo」本格展開
「企業向けIT分野では、SAPがAI活用のトップランナーだと自負している」――。SAPジャパンの宮田伸一 常務執行役員デジタルエンタープライズ事業副統括は、同社が先頃開いたAI戦略に関する記者説明会でこう力を込めた。
統合基幹業務ソフト(ERP)市場をリードするSAPは、データベースソフト市場をリードするオラクルとともに、エンタープライズソフトベンダーの2強といわれる。が、IT分野でAIといえばグーグルやアマゾン、あるいは2強より広範囲の製品・サービスを扱うIBM、マイクロソフトなどが目立ちがちだ。冒頭の宮田氏の発言からは「いや、そんなことはない」という強い意思が感じられる。
では、SAPとオラクルのAI戦略とはどのようなものか。会見を開いたSAPのケースを中心に見ていこう。
SAPは今、機械学習などのAIをはじめ、IoT、アナリティクス、ビッグデータ、ブロックチェーン、データインテリジェンスなどに関する700を超える技術要素を「SAP Leonardo」(以下、レオナルド)というブランド名でまとめて提供し始めている。今回の会見もレオナルドを日本市場で本格展開していくことを明示するために開いたものだ。
では、レオナルドによるSAPのAI戦略の差別化ポイントはどこにあるのか。それを端的に示したのが、【図1】である。
左側の「ビジネスシステム」に列記されているのが、最新ERP「SAP S/4HANA」をはじめとした同社の主力アプリケーション群。右側の「システムオブインテリジェンス」がレオナルドで、この間をビジネスシステムで生み出されたデータが行き来することにより、右端に記されているように「SAPアプリケーションをさらに賢く」、そして「新たなアプリケーションが開発/構築・展開可能」になるというわけだ。
「インテリジェントエンタープライズ」を実現
この【図1】において、左側と右側でそれぞれ何ができるのかを端的に表しているのが、【図2】である。左側は「ナレッジワークの自動化」、右側は「不可能を可能に」という言葉に集約される。
【図2】について説明したSAPジャパンの松館学プラットフォーム事業本部エバンジェリストは、「機械学習のアルゴリズムは、競合他社との間でそんなに差は出ない。この技術を有効活用するうえで肝心なのはデータ。その点、グーグルやアマゾンなどはそれぞれのサービスで膨大な消費者データを集めて活用できる優位性がある。一方、SAPはERPの実績から、多くの企業が保持するデータをレオナルドですぐにインテリジェンスに活用することができる。これができるのはまさしくSAPだけだ」と語り、「SAPはAIを活用して“インテリジェントエンタープライズ”を実現する」と強調した。
一方、オラクルも先頃、機械学習をはじめとしたAI技術を軸としたサービス「Oracle Cloud Platform Autonomous Services」を、同社のデータベースからクラウド基盤サービス全体に適用することを米国で開いた自社イベントで発表。その際、同社首脳が「2020年までにエンタープライズアプリケーションの殆どにAI機能を搭載する」とも語った。
ただ、オラクルはAI戦略の全体像をまだ明らかにしていないようにも見て取れる。近いうちに何らかの発表が行われるのではないかと推察する。
そのオラクルもSAPと同様、「企業向けIT分野では、オラクルがAI活用のトップランナーだ」という思いがあるだろう。それはSAPと同じく、データベースの実績から、多くの企業が保持するデータを活用できるからだ。両社のAI戦略の差別化ポイントはまさしくこの点にある。
ただ、企業が保持するデータの活用には強みを発揮できるSAPとオラクルも、これからは外部の有効なデータをどう取り込んでいくかが課題になるかもしれない。どこのデータとどう連携していくか。そう考えると、有効なデータの獲得に向けた新たなバトルやアライアンスも生まれそうだ。
(隔週金曜日に掲載)
【著者プロフィール】
松岡 功(まつおか・いさお)
フリージャーナリストとして「ビジネス」「マネジメント」「IT」の3分野をテーマに、複数のメディアでコラムや解説記事を執筆中。電波新聞社、日刊工業新聞社などで記者およびITビジネス系月刊誌の編集長を歴任後、フリーに。危機管理コンサルティング会社が行うメディアトレーニングのアドバイザーも務める。主な著書に『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。1957年生まれ、大阪府出身。
(2018/2/23 05:00)