[ オピニオン ]
(2018/4/19 05:00)
地方銀行の経営統合をめぐって、公正取引委員会と金融庁の対立が鮮明になってきた。両者の対立が際立つきっかけとなったのは、2016年2月に公表されたふくおかフィナンシャルグループ(FG)と十八銀行の統合計画だ。
ふくおかFGは、傘下に融資シェアが長崎県内2位の親和銀行(佐世保市)を抱えている。県内首位の十八銀と統合すると、長崎県内における法人向け融資のシェアが約7割に達することになる。公取委は「競争がなくなることで、融資金利の上昇など、顧客に不利益が生じる恐れがある」との懸念を示してきた。
一方、金融庁の有識者会議は、少子高齢化で人口や企業が減少する中で、地方銀行の経営統合を進めないと、多くの地銀の経営が一段と厳しくなり、地域経済にも悪影響が及ぶと主張している。同提言は、具体的には「長崎では人口や企業数の減少が全国を上回るペースで進行し、複数行での競争は持続可能ではない」とした上で、「経営余力があるうちに統合を認め、地域に貢献する方が望ましい」とした。
ちなみに、08年度以降の10年間に公表された地銀の統合計画は計16件で、ふくおかFGと十八銀のケースを除く全ての計画が承認されている。
地銀106行の17年3月期決算では、半数以上は融資などで得られる本業の利益が赤字だった。ゼロ金利が、地銀のビジネスに強い逆風になっているためだ。預金部門は集めた預金を他行に貸しても金利がゼロなので、コスト分だけが赤字になる。一方、融資部門は、取引先が設備投資をしないで、利益を借金返済に回すことになり、融資残高が減っていく。融資残高が減らないように無理して金利の引き下げ競争をしていくと、各行とも「貸出金利は下がったが、融資残高は増えない」ということになる。こうした中、地銀は早晩、合併・統合でコスト削減を迫られる構図というのが実態だ。
加えて、フィンテックなど技術革新がさらに進んでいくと、数年内には、地域に密着した金融機関でなくても、遠隔地の借り手に融資することが容易になってくる。そうなると地域独占という概念自体が意味をなさなくなると言えよう。
現在の好況時でさえ、過当競争による小さな利ざやで地銀の業績は厳しい。今後景気が悪化した時には、不良債権が増えた時の影響が懸念される。金融機関の自己資本規制比率があるため、仮に地銀が赤字続きになると、貸し渋りという事態になりかねない。貸し渋りを受けるのは、一部の大企業や超優良企業を除いて中小企業が主な対象になってくる。そうなれば、日本各地で、血液となる融資を受けられない中小企業などの倒産が相次ぐのは間違いない。
ただでさえ、企業の廃業が相次いでおり、企業の減少は社会的な問題になりつつある。そこに金融機関の貸し渋りに端を発する資金供給不足による連鎖倒産という事態になれば、地域経済、ひいては日本経済に壊滅的な打撃を及ぼすことになりかねない、といった見方も少なくない。
独占による利潤や顧客保護という視点も大事ではある。しかし、一方で地域経済、日本経済という大きな視点から見ると、どうだろうか。今後の地銀のあり方は、日本経済の行方を占う試金石となる。(幕井梅芳)
(2018/4/19 05:00)