[ オピニオン ]
(2018/5/17 05:00)
人工知能(AI)、ニューラルネットワーク、IoT(モノのインターネット)、自動運転、ビッグデータ解析などなど、情報処理と情報通信、つまりコンピューターやネットワークに関連する技術が花盛りである。これらによって現状ではむしろ仕事が煩雑になっているような気もするが、やがて私たちの仕事の能率を向上させ、安全で豊かな生活をもたらしてくれるのだろう。
一方で、こうした情報の処理や通信の機器を支えているのは機械技術である。最先端の情報通信技術も優れた機械があって初めて実現できるだが、その機械の役割がかすんできているように感じるのは考えすぎだろうか。高度成長期は技能者が操る機械が次々に豊かさを生み出してくれる実感があり、子どもたちは機械に憧れた。だが高度化・複雑化につれ、機械が見えにくくなってきた。大学でも2000年代には機械を冠した学科名が「システム工学科」などとカタカナに変わっていった。
この頃、大学の学科名から「機械工学」の名が消えつつあることから、「『機械』を死語にするな」なという言葉が、大学の先生や機械業界などの関係者の間でささやかれた。日本機械学会は若者の理工系離れ、機械離れを回避しようと、創立110周年を前にした2006年に、七夕の中暦にあたる8月7日を「機械の日」、8月1~7日を「機械週間」(メカウィーク)に制定した。
また同学会は創立110周年記念事業として07年に機械遺産の認定を始め、17年の120周年までに90件を認定した。この90件をまとめて昨年『機械遺産―機械遺産でたどる機械技術史―』を刊行した。江戸時代の旧峯岸水車場や、からくり人形・弓曳き童子、万年時鳴鐘などから始まり、蒸気機関、電化・内燃化、高度経済成長、電子制御化とそれぞれの時代を演出した機械が紹介されており、読み物としてもとても面白い。
同書は「日本の近代化を牽(けん)引したのは機械と機械技術に他ならない」と記している。特に明治政府のスタートから150年、西洋文明を取り入れ、世界有数の工業国となったわが国の経済を支えきたのは優れた機械技術とそれが生み出した多様な製品群であることは論を待たない。
超スマート社会実現の主役は電子デバイスやコンピューター、通信機器などだろう。だが、これらを実現するのは機械と機械技術である。日本の機械とその関連産業がこれからも優れた機械と機械技術のたゆまぬ開発によって、新しい時代を切り開くことを期待したい。(山崎和雄)
(このコラムは執筆者個人の見解であり、日刊工業新聞社の主張と異なる場合があります)
(2018/5/17 05:00)