[ 金融・商況 ]

【電子版・新連載】丸山隆平の「フィンテック最前線」(1)/仮想通貨を利用した資金調達は根付くのか?

(2018/5/27 07:00)

論点の整理と環境改善を急げ

  • 金融庁は仮想通貨規制を再検討している(4月10日に開かれた「仮想通貨交換業等に関する研究会」の初会合)

■世界中の投資家から資金調達できる?

 仮想通貨を使った資金調達(ICO=イニシャル・コイン・オファリング)について金融庁は「その仕組みやトークンの性質によって資金決済法や金融商品取引法の適用対象になる場合がある」との見解をとり、一律に禁止という姿勢にない。全面的に禁止している中国や韓国と異なり、あくまで「個別の判断」とし、場合によって資金決済法、あるいは金融商品取引法の適用になるとする。

 ICOとはどのようなものか。ICOのコンサルティング事業に参入したベンチャー企業AnyPay(エニーペイ、東京都港区)の大野紗和子取締役最高執行責任者(COO)は「ICOは仮想通貨技術を使った資金調達方法。企業やプロジェクトがトークンと呼ぶデジタル権利証を発行し、その対価として投資家から『ビットコイン』などの仮想通貨を受け取る」と説明する。

 支払い手段として円や米ドルでなく、仮想通貨を使う理由はまず、スピード。また、仮想通貨の大きな特徴であるボラティリティー(価格変動)の高さを利用した側面も見逃せない。

 「ICOではプロジェクトが発動すればその事業でトークンが利用でき、事業が盛んになればコインの価値が上がり、サービスをより一層活用できる。ICOでは投機目的でなくサービスと一体となり、投資家とユーザーを一緒に巻き込んで成長していくことができる。資金調達をしながら、初期のユーザーを確保できることが特徴」(大野氏)とする。

■金融庁の注意喚起

 一方、消費者に対して金融庁はICOで発行されるトークンを購入することは、①価格が急落したり、突然無価値になってしまう可能性がある②ホワイトペーパー(事業の目論見書)に掲げたプロジェクトが実施されなかったり、約束されていた商品やサービスが実際提供されないリスクがある。またICOに便乗した詐欺もある-と注意を喚起している。

 実際、消費者庁はICOに関連した相談の事例として次の2例を掲げている。

 ①将来上場するとネットで話題になっているICOプロジェクトに参加したが、トークンが発行されない②ICOで儲(もう)かる話をSNS(会員制交流サイト)で8人に紹介し、お金を振り込ませたが、その後上場もなく、紹介した人から返金を迫られている。

■ICO法規制についての議論

 このように日本ではICOについて法的に明確な規定が存在していないため、識者の間にさまざまな議論がある。

 多摩大学ルール形成戦略研究所のICOビジネス研究会は4月5日、ICOについて提言リポートを公表している。

 同リポートでは「ICOの浸透・発展の前提として、トークンの発行や発行市場でのトークンの売買に関してルール形成が求められる。これは、流通市場においてはトークンの売買についてある程度資金決済法というルールが存在する一方で、発行市場では法規制等の明示的なルールが不在であるために、当事者間の認識の不一致や投資家保護がなされていないケースが発生しているためである」という。

 同研究所はその上で、トークンの発行については次の二つの原則を提言している。

 ①サービス提供等の便益提供の条件や、調達資金・利益・残余財産の分配ルールを定義し、トークン投資家、株主、債権者等へ開示すること。②ホワイトペーパー順守およびトレースの仕組みを定めて開示すること。

 また、上記原則の帰結として、実務的に求められる事項をガイドラインとして以下を提言している。①既存株主・債権者も受け入れられる設計であること②株式調達等金融商品による既存の調達手法の抜け道とならないこと

 さらにトークンの売買については、投資家保護を確保するべく次の五つの原則を提言している。

 ①トークンの販売者は、投資家のKYC(Know Your Customer〈ノウ・ユア・カスタマー、本人確認〉)や適合性について確認すること②トークン発行を支援する幹事会社は、発行体のKYCについて確認すること③トークンの取引所を営む仮想通貨交換所は、上場基準について各社共通の適切なミニマムスタンダードを制定・採用すること④上場後はインサイダー取引など不公正取引を制限すること⑤発行体、幹事会社、取引所等トークンの売買に関与するものは、セキュリティーの確保に努めること

■SBIホールディングス北尾社長、日本仮想通貨事業者協会の主張

  • 日本仮想通貨事業者協会の登録事業者関係者らの2017年10月2日の記者会見(中央が奥山泰全会長)

 また、SBIホールディングスの北尾吉孝社長はICOの問題点について、「発行体が開示するホワイトペーパーだけでは信用を計れない計れないことが問題だ。傘下のモーニングスターを通じてICOの格付け情報を提供することで投資家の判断材料を増やしていく」と語っている。

 仮想通貨の業界団体日本仮想通貨事業者協会は2017年12月にICOについて会員に向けて以下のような対応指針を公表している。

 ①ICOトークンを取り扱う場合にはその内容、性質を踏まえ適用される関係諸法令を順守すること

②ICOトークンの取り扱いに先立ち、自社の審査基準に照らして慎重に審査を行うとともに、利用者に対して当該ICOトークンの購入にかかるリスクを十分に説明すること

③ICOトークンの取扱期間中、当該ICOトークンに関し、利用者の判断に必要となる情報を継続的に利用者に提供すること(隔週日曜日に掲載)

著者プロフィール

丸山隆平(まるやま・りゅうへい)

1972~1989年 日刊工業新聞記者としてICT産業、流通業界など取材。1990~2012年、IRコンサルタントとして100社以上の財務広報をサポート。2013年~フリーの経済ジャーナリストとして、経済誌、Webメディアで活動。現在、金融タイムス記者、プレジデントオンライン、ZUUonlineなどに寄稿。著書に『AI産業最前線』(共著、ダイヤモンド社)、『まるわかりフィンテックの教科書』(プレジデント社)などがある。1948年、長野県生まれ。

(2018/5/27 07:00)

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