[ オピニオン ]
(2018/6/15 05:00)
安倍晋三首相が最重要法案と位置づける働き方改革関連法案審議が大詰めを迎えている政府与党は6月20日の国会会期末を延長しても成立させる構えだが、複雑で分かりにくい一括法案を国民に丁寧に説明することが求められる。
最大の焦点は、高収入の一部専門職を労働時間規制から除外する高度プロフェッショナル(高プロ)制度の導入の是非。自民、公明両党と日本維新の会、希望の党は5月、高プロ対象になった後に自らの意志で離脱できる規定を明文化した。
野党の一部と合意したことで今国会中の成立が濃厚となった。しかし、高プロ導入については立憲民主党、国民民主党、共産党などは「働かせ改革だ」「米国のホワイトカラー・エグゼンプション(WE)と同じ制度だ」などと依然として反発。高プロの削除や厚生労働省・労働政策審議会への法案差し戻しなど反対の姿勢を強めている。
労働基準法では、残業が一定の月60時間を超えれば企業側は割増賃金を支払う必要がある。しかし、高プロの対象となる人は労働法制が適用されず、残業代ばかりでなく、深夜労働や休日出勤の割り増しも無い。
ただ、労働者側は、導入当初は高度な労働者に限られていた派遣労働者がなし崩し的に製造業にも適用され、格差が拡大したトラウマがある。一方、安倍首相は第1次安倍政権時代に年収900万円以上を対象としたWE制度の導入を検討したが、今回同様、野党や労働組合の激しい反発を受けて法案提出を見送った苦い経験がある。
金融やIT分野では、給与体系を「労働時間」よりも「労働の成果」にした方がふさわしい労働者は急増しているからだ。ただ、米国ではタクシー運転手など低賃金労働者などにもWEが適用され、長時間労働と健康被害がまん延。日本とは逆に規制に乗り出している。対象となる年収が引き下げられるという保証もないのが気がかりだ。
政府・与党はこうした実態を丁寧に説明し、適用年収要件や職種のハードルを下げないことを明確に示すべきだ。
(2018/6/15 05:00)