[ 機械 ]
(2018/10/3 10:00)
アプリケーションの拡大や国内設備投資の増加を背景に、工作機械受注は高水準での推移を想定している。高精度で連続加工が可能なマシニングセンター(MC)はけん引役の一つ。一方、生産現場のさらなる効率化に向けたソリューション提案は今後の一大トレンドに。システム提案力やターンキー受注能力、提携や協業の柔軟性が各社の差別化要素となろう。
大和証券 エクイティ調査部 田井 宏介
工作機械受注 高水準続く
工作機械受注の好調が続いている。2017年の受注高は1兆6450億円と前年比32%増の高い伸び率となり過去最高を更新。足元でも、伸び率こそ縮小傾向だが、毎月の受注高は1500億円を上回る水準が続いている。製品別でのけん引役はMC。17年実績では前年比47%増と増加し、受注高全体に占める構成比は45%となった。
そもそもMCは、穴開けやねじ切り、面加工などのさまざまな加工工程で使用される工具の交換を数値制御(NC)により自動化し、1台で連続して行うことを可能にした機械。従来は各工程で専用機が使用されるケースが多かったが、ワークの取り付け時に加工精度が低下するリスクがあり、高精度加工を目的に開発されたのがMCである。金型産業のような多品種少量生産の業界では、「段取り替え」による生産時間ロスの圧縮を目的に、連続加工が可能なMCへのニーズが拡大してきた。
近年では、自動車産業での部品やプラットフォームの共通化により生産や加工ラインのフレキシビリティー(柔軟性)は年を追うごとに重要な要素となりつつある。こうした業界構造の変化もMCに対する需要の原動力となってきた。
今後もMCに対する需要(構成比)が落ち込む可能性は小さいと考えている。特にここ数年の、人件費上昇を背景とした生産ラインの自動化や省人化ニーズの拡大は、継続的な需要のけん引役になる見込み。新興国では生産品目の品質向上を意識した需要も原動力となろう。
アプリケーション拡大と国内需要がキーワード
工作機械需要は当面高い水準が続くと想定している。既に20カ月連続して前年同月比のプラスが続いていることもあり、9月頃には同マイナスに転じる可能性があるが、受注額そのものは1500億円を上回る高い水準が続くと想定している。キーワードは、アプリケーションの拡大と国内需要の2点。
アプリケーションの拡大とは、これまでの需要けん引役であった自動車産業に加えて、建設機械やロボット、鉄道車両、航空機、風車といったさまざまな業種での設備投資が増加傾向にあることを意味している。自動車産業の中でも、電気自動車(EV)やハイブリッド車(HV)の増加、先進運転支援システム(ADAS)に対応した新技術や新製品の増加により、バッテリーやモーター、電子部品といったさまざまな製品の金型や部品加工のニーズが増えつつある。
自動車や建設機械、農業機械の分野で研究が進む自動化(無人運転)や運転サポート技術の進展も、半導体需要の増加を筆頭に新たな部品需要の増加といった形で工作機械ユーザーの裾野拡大につながると考えている。第5世代通信(5G)の登場による通信速度のアップも起爆剤となる可能性があろう。
国内市場では、08年のリーマン・ショック以降、多くの産業で不要不急の設備投資が抑制され、生産設備の更新や高機能化は見送られてきた。
しかし、利益水準が過去ピークにまで回復してきた企業が増えてきたことに加えて、省人化や無人化といったニーズも相まって更新投資を中心とした設備需要は増加基調にある。アプリケーションの拡大にもつながる変化であり、当面は漸増傾向が続くものと想定している。
新たな潮流への対応力が差別化要素に
今後の注目点は、ITシステムやソフトウエアを活用した生産現場に対するサービス、ソリューション提供と考えている。モノづくりの現場は、少品種多量や変種変量などさまざまだが、人手不足や人件費の高騰は全ての産業が抱える課題の一つであり、自動化や工程集約による省人化ニーズは今後も拡大が続く見込み。
MCを活用した連続加工ラインの構築だけでなく、射出成形機や放電加工機など他の生産設備やロボットなどとも組み合わせた生産ラインの設計や立ち上げ、さらには工場全体や複数工場の一括管理、遠隔監視といったサービスの付加も求められていくこととなる。受注形態も、装置単体から生産ラインやシステム全体を請け負うターンキーが増える可能性があり、その際には工作機械メーカーは1社単独ではなく異業種企業との連携や協業が不可欠となる可能性もあろう。
現段階では、生産設備をつなぐことが主眼とされており、日本企業が得意なエッジ領域でのデータ処理を生かしたダウンタイムの削減や予知保全が付加価値の中心とされているケースが多い。得られるデータを活用して「何がしたいのか」「何ができるのか」までの追求は今後の課題と言える。
さらに将来的には、人工知能(AI)技術を活用した生産性改善の動きも加速していくだろう。一部の企業では独自のアプリケーションを活用したユーザーインターフェースの改善や顧客企業の囲い込みが始まりつつある。欧米とは異なり、装置メーカーやソフトウエア企業による規格が乱立傾向にある中で、差別化戦略となり得るのかは引き続き注目していきたい。
最終的な目的は機械ユーザーである顧客企業の生産性改善である。設備メーカーの独り善がりではなく、双方がウィンウィンとなる関係構築が広がると同時に、日本の製造業の競争力が底上げされていくことに期待したい。
(2018/10/3 10:00)