[ オピニオン ]

産業春秋/小箱の切手

(2018/10/30 05:00)

「もう、使わないから」―。10年ほど前、1人暮らしの近所のおばあさんが、亡くなる直前に小箱をくれた。中には色とりどりの記念切手が詰まっていた。

コレクターだったわけではない。発売のたびに窓口で少枚数を買い求め、遠くの親戚あての便りに図柄を選んで貼っていたそうだ。時がたてば値打ちが出るという思いもあったろう。

日常の中で切手を使うシーンが急速に減っている。“端書き”は電子メールに取って代わられ、荷物は宅配便が台頭した。配達記録を残したい時でも、日本郵政は「クリックポス」や「レターパック」といった切手不要の定額サービスを推奨している。

速達や書留を出す時、少額切手を何枚も貼るのはスマートでなく感じる。2017年6月に、はがきが62円に値上げされ、消費税創設時の1989年に、封書用だった切手の残りが使いやすい環境になった。とはいえ、19年秋に予定される消費増税で料金改定があれば、また半端な額面になってしまう。

なんだかんだで、おばあさんが残した小箱の切手は、あまり減っていない。手数料を払っても切手類にしか交換できないから出番が回ってこない。「もう、使わないから」という言葉に、別の意味があったのかも…。

(2018/10/30 05:00)

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