[ ICT ]
(2019/2/1 05:00)
【クラウドサービス「FUJITSU Quantum-inspired Computing Digital Annealer」】
計算量が膨大で従来のコンピューターでは解くことが難しい「組み合わせ最適化問題」に挑む。富士通は量子現象に着想を得た新しいアーキテクチャー(設計概念)「デジタルアニーラ」によって、この新市場の開拓に乗り出した。
デジタルアニーラは量子の振る舞いを取り入れたアニーリング方式の一つ。量子ビットの仕組みを再現する専用のデジタル回路「DAU」の開発をはじめハードウエアの構成を一から考え、超伝導回路を用いる量子アニーリングとは異なる道を選んだ。
こだわったのはビット同士の相互作用において、組み合わせパターンのすべてに対応できる「全結合」の実現。全結合を前提とすることで「組み合わせ最適化問題について数式化さえできれば面倒なハードウエアへの落とし込みを考えず、すぐに問題が解ける」(藤沢久典富士通研究所デジタルアニーラプロジェクト・エキスパート)と考えた。
スタートは2014年。研究者2人で試行錯誤で始めたが、1年程度で手応えを得て、実用化への受け皿となる事業部との話を始めた。試作機の社内公開も経て、事業部に正式に話を持ち込んだのが16年冬だった。
開発当初は、カナダで量子アニーリング機が登場した頃で、他社からデジタル回路での論文発表もあった。だが、事業部側では「将来性を評価し、スピード最優先で引き受けた」(中村和浩富士通AIサービス事業本部事業部長代理)。
事業化に向けて、真っ先にミドルウエアを提供するカナダの1QBitと基本合意を締結。以降、社内合意の取り付けや契約書の作成、営業への説明などを「チーム一丸となり、すべてを並列で行った」(中村事業部長代理)。
第1世代のクラウド版の提供が18年5月。「研究所の新技術がこんなに速く事業化できたのは例がない」と藤沢エキスパートは振り返る。デジタルアニーラはいまや海外事業の先兵として、全社からも期待がかかっている。(編集委員・斉藤実)
【製品プロフィル】
心臓部であるDAUは第2世代品となり、ビット間の全結合の規模は現行比8倍の8192ビットに拡張し、処理速度は従来比100倍と飛躍的に高まった。用途は物流の効率化や災害時の復旧計画、創薬開発、投資ポートフォリオの最適化など幅広い。クラウド版に加え、2月からはオンプレミス(自社保有)機も投入する。
(2019/2/1 05:00)