[ オピニオン ]

社説/原子力人材 廃炉のためにも育成が不可欠

(2019/2/14 05:00)

日本メーカーが海外で計画した原子力発電所建設(原発輸出)は凍結や見直しが相次ぎ、国内での建て替え(リプレース)や新増設も見通しが立たない。一方、既存設備の高経年化により、国内では廃炉を決定もしくは検討中の原発が増え続けている。廃炉を確実に遂行するため原子力技術者にとどまらず、運転員や作業員まで“現場を知る”原子力人材の維持・育成が不可欠だ。

正直、驚いたというか、現実を知った。東京電力福島第一原子力発電所事故を引き起こした2011年の東日本大震災直後に運転を停止し、原子力規制委員会の新規制基準に適合するための安全対策工事が進む既存原発を見学した際のことだ。二重・三重の安全対策が施された真新しい操作室に運転員が勤務していたが、その半数は実稼働の経験がない。非常防災を含め、運転操作訓練を積んでいても、シミュレーションだけで十分かと不安になった。

安全対策に万全を期すことに異論はないが産業分野を問わず、完璧なマニュアルが用意されていてリアリティー十分なシミュレーション技術が開発されても、実際の現場でしか得られない教訓や知見があると思う。

巨額の安全対策費を投じ、福島第一原発事故を契機に設置された原子力規制委の新規制基準に適合したのに、地元自治体が同意せず再稼働できないままになっている原発もある。少なくとも、こうした状態は打開したい。運転停止が長引く間に実経験を持つ最前線の要員が減り続けるだけでなく、仕事として原子力工学を志す後進の意欲も削(そ)いでしまう。

巨大なエネルギーを秘めた原子力の安全は、関係者による不断の努力でしか維持できない。人材育成が滞れば危機を招く。例え国内での新増設がなくても今後、半世紀以上に渡って廃炉作業は続く。

官民一体で進めてきた原子力開発。原発に対する不信感を払拭(ふっしょく)しきれない国民感情と正面から向き合い、次世代の人材育成をどうすべきなのか、真剣に議論する必要がある。

(2019/2/14 05:00)

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