[ オピニオン ]

【電子版】論説室から/帰趨次第では波乱?アジア主要国の総選挙・大統領選

(2019/3/7 05:00)

 タイ、インド、インドネシアなどアジア主要国で、3月末から5月にかけ、総選挙や大統領選が行われる。東南アジア経済に影響力が多きい、中国経済の減速は明確になった。各国でも減速気味の経済に加え、それぞれの内政上、対外的な変数は多くなっている。選挙の帰趨(きすう)次第では、「繁栄のアジア」は変質をきたしそうだ。

タイ、「民政移管」の難しさ露呈

 タイでは、軍事政権が2014年5月のクーデター以後から続いているが、ようやく3月24日に総選挙が実施されることになった。同国の選挙制度は親軍政の政党に有利になるように改変され、17年の憲法改定で、首相は総選挙で25議席以上獲得した政党の首相候補から、上院(250議席)と下院(500議席)の投票で選出するが、上院議員は実質的に軍政の指名だ。

 「民政移管」になるかどうかが、同国総選挙の最大の関心事だった。だが、タクシン元首相派による、プミポン前国王の長女で、ワチラロンコン国王の実姉であるウボンラット王女の首相候補擁立が失敗に終わり、軍政のプラユット暫定首相をいただく親軍政の政党の優勢は動きそうもない。

 注目点は、名君といわれた、プミポン国王(16年10月死去)から国王の座を継ぎ、5月上旬に戴冠式を行うワチラロンコン国王に対する国民の信頼だ。同国内では、王室に対する不敬罪があるが、ネット情報の普及はグローバルだ。同国王に関する情報も散見される。タイ経済は人手不足もあり、外資にとってリスク要因は高まる、との見方が強まりそうだ。

インドネシア、プラボウォ候補の逆転なるか

 4月17日に投開票されるインドネシアの正副大統領選挙では、現職のジョコ・ウィドド氏と野党第1党のプラボウォ・スビアント氏の戦い。プラボウォ氏は元陸軍戦略予備司令官。副大統領には、ジョコ氏が、イスラム教指導者のマアルフ・アミン氏を、プラボウォ氏は前ジャカルタ特別州副知事のサンディアガ・ウノ氏を据えている。

 両大統領候補は14年の大統領選でも対決、庶民派のジョコ氏が勝利した。今回の選挙戦は18年9月末から始まっているが、正副大統領候補による初のテレビ討論会が開かれている。総選挙までに5回のテレビ討論が行われる予定だが、これまで行われたTV討論会は、ジョコ氏有利になっているようだ。

 総選挙も同時に行われる。同国では大多数がイスラム教徒。貧富の格差是正はいまなお課題。人口の半分を超える若い有権者(17-38歳)の出方が選挙の趨勢(すうせい)を左右し、影響力を持つイスラム保守勢力の動向も注目される。

インド、モディ政権は強気の対外姿勢

 5月までに行われるインドの総選挙では、現与党のインド人民党(BJP)のモディ政権が信任されるかどうかが最大の焦点。18年11月から12月にかけての地方選挙では、マディア・プラデシュ州、ラジャスタン州、チャッティスガル州の主要3州で、最大野党のインド国民会議派(INC)がBJPに替わり州政権を奪取した。

 とはいえ、INCを率いるラフル・ガンジー総裁は、インドの初代首相であるジャワハルラル・ネルー首相から続くインド政界の名門「ネルー・ガンジー王朝」の第4代嫡子。気の弱さ、指導力に問題があるなどと、これまで評判がいいと言えない。このため、有能で人気のある妹のブリヤンカ・ガンジー・バドラ氏を、首都デリーの東に広がり同国最大の人口を誇るウッタルプラデシュ州の東地域の選挙運動を統括する責任者に据え、INC支持に向けた運動を強化している。

 一方、モディ政権は14年以来、腐敗防止へ高額紙幣廃止、州境での物流円滑化などに向けた物品・サービス税(GST)の導入といった「痛みを伴う改革」を強力な指導力で実施。また、積極的な外資の誘致などにより、7%台の経済成長を遂げてきた。モディ政権は「次期総選挙は盤石」と見られていたが、3州での州選挙敗北に見られるように、人気には陰りがみられる。

 モディ首相は19年度予算案に小規模農家や中間所得層に対する支援策を盛り込んだ。カシミール地方の帰属を巡る、インドとパキスタン間の緊張も高まっている。モディ首相は、同地方で発生した2月14日の、イスラム過激派によるインド側に対する自爆テロを、パキスタンは「支援した」と非難。インド軍はテロ組織の拠点を空爆した。

 総選挙を控えているだけに、モディ首相の姿勢は強硬だ。同首相は、中国との係争地であるアルナチャルプラデシュ州(インドが実効支配)を2月9日に訪問している。ナショナリズムに訴える作戦だ。インドの総選挙結果は、国際情勢の悪化につながりかねない危険性を秘めている。

 このほか、シンガポールが今年、前倒しで総選挙を実施し、リー・シェンロン首相の後継体制を固めるとの見方もある。(中村悦二)

(このコラムは執筆者個人の見解であり、日刊工業新聞社の主張と異なる場合があります)

(2019/3/7 05:00)

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