[ オピニオン ]
(2019/3/14 05:00)
ベースアップ(ベア)がデフレ脱却に結びつく指標でないならば、過度にこだわって産業界を圧迫すべきではない。
春の労使賃金交渉(春闘)は13日、大手企業の集中回答日を迎えた。相場づくりをリードする多くの業界がベアを回答したが、中国経済の減速など最近の景況の変化もあり、金額の水準は前年に及ばなかった。
安倍晋三首相は今年も新年の経済3団体の賀詞交歓会で「賃上げへの協力」を各社トップに求め、財界首脳を苦笑させた。産業界は政権への協力姿勢を崩してはいないとはいえ“官製春闘”に対する視線は年を追うごとに冷淡になっている。
日本経済にとってデフレ脱却が最優先課題であるとの認識は官民とも同じだ。首相の努力を産業界は引き続き高く評価している。それでも産業界のリーダーの大半は、ベア実現が社会を変え、経済に明るさをもたらしたという実感を持てない。
そもそも官製春闘がスタートした当時に比べて、雇用環境は激変した。人手不足が顕在化し、中小企業や運輸・建設業界などは働き手の確保ができない深刻な状況に悩まされている。加えて長時間労働の是正など“働き方改革”への取り組みや、短時間労働者の社会保険加入などの新たな課題を企業は突きつけられている。
ベアという「一律処遇改善」は、物価上昇による生活の圧迫の救済には効果的だ。しかし、企業内の既存の労働体制を硬直化させるデメリットもあることを忘れてはならない。いま企業が求められるのは、積極的な合理化・省力化によって他の不足している分野に労働力を回す“柔軟で前向きな構造改革”である。ベアへの過度のこだわりが経営者を圧迫し、産業界の変化を妨げていないか。
むろん非常識な長時間労働の是正など労働条件見直しも、優秀な従業員に報いることも企業の責務である。日本経済がゆるやかなインフレに向かえば、ベア的な処遇改善も必要になろう。しかし、これまでのような異常な官製春闘には、政労使とも見切りをつける時期だ。
(2019/3/14 05:00)