[ オピニオン ]
(2019/4/8 05:00)
通勤時に見上げると、自宅近くの1本の桜が満開の時期を迎えようとしている。白色や薄ピンク色など青い空を背景にあでやかな色彩が映える。この季節の楽しみの一つだ。「名もなき」桜でも、私にとっては銘木にも劣らない。
某テレビ局では「石戸蒲(いしとかば)ザクラ」を取り上げていた。埼玉県北本市の東光寺の境内にある。樹齢およそ800年の銘木で、国の天然記念物に指定され、「日本五大桜」の一つだ。
この桜の名前は、源頼朝の異母弟である源範頼(のりより)の伝説に由来する。範頼は、遠江国蒲御厨(とおとうみのくにかばのみくりや、現静岡県浜松市)で生まれたため「蒲冠者(かばのかじゃ)」と言われた。源平の合戦では将軍として活躍、兄頼朝の鎌倉幕府の確立に大きな功績を残した。
ところが、頼朝から謀反の疑いをもたれ、幽閉され、殺されてしまったとされる。しかし、範頼は石戸の地まで逃れ、隠れ住んでいた。逃れる際についてきた杖をポンと立てると、それが根付いて蒲ザクラになったと言う。
ただ美しいというだけではない。一瞬で散っていくはかなさもまた魅力に違いない。時には、桜の持つ不思議な力が働いて、人の想像力をかき立て、さまざまな伝説を生みだしていく。令和協奏曲の中で“平成最後”の桜を謳歌(おうか)するのも一興だ。
(2019/4/8 05:00)