(2021/4/21 05:00)
モノづくり日本会議は3月3日、高村ゆかり東京大学未来ビジョン研究センター教授を招き、特別講演会「パリ協定後の気候変動政策・環境政策―サプライチェーン、金融、『変化』の中の企業」を、オンライン開催した。金融機関・投資家が、ESG(環境・社会・企業統治)の観点で企業を評価し、投資を行う「ESG投資」が世界的に拡大している。企業を取り巻く環境の急変などを、政策の動向も含め考えた。
ESG投資拡大し、業界超え連携
東京大学 未来ビジョン研究センター教授・高村ゆかり氏
菅義偉首相が昨年10月に、2050年のカーボンニュートラルを目指すことを表明するなど、日本をはじめ世界はカーボンニュートラルに向けて大きく動いている。今世紀後半に向けた長期目標を定めた2015年のパリ協定に沿ったもので、国際的にもこれまで120カ国以上が2050年カーボンニュートラルを目標に掲げている。
欧州連合(EU)では成長戦略として打ち出しているし、英国では一部の上場企業に、気候変動に関する財務リスクの情報開示を義務づける動きがある。米国ではクリーンエネルギーなどへ4年間で200兆円のインフラ投資を行う計画がある。中国でも経済活動当たりの二酸化炭素(CO2)を減らす目標を掲げている。パリ協定の長期目標が各国を動かしている。
ゴールを示す
こうした目標は達成可能なのだろうか。その答えはシンプルで、今の私たちの社会の延長線上では脱炭素社会は来ない。今想定している水準の排出削減対策では、とうてい達成できない未来なのだ。
ではなぜそんな目標を立てたのか。ありたいと考える未来像をビジョンとして描いてゴールとして示すことが、社会の課題や必要なイノベーションを示す参照点となるからだ。国は達成に向けて一貫した政策を導入し、企業は安心してビジネス戦略を作り、投資もする。そのためのビジョン設定だ。
パリ協定の長期目標と整合的な目標を掲げる取り組みに、世界の1200を超える企業が参加している中、日本からも多くが参加し認定を受けている。再生可能エネルギー100%で自社事業を行う目標を掲げる「RE100」にも世界300社あまりのうち、日本は50社が加わっている。
企業がカーボンニュートラルに向かう動機は、金融市場において企業価値が左右される「金融」の問題と、サプライチェーンの変化、需要家のニーズの変化がある。
調達にも影響
サプライチェーンについては、例えば飲料メーカーは、自社の製品が運ばれ、販売され、消費されるといったサプライチェーン全体のCO2排出を管理して削減している。また、米マイクロソフトや米アップルといったグローバル企業が、サプライヤーへ再生エネルギーを使った調達を要請するようになっており、クリーンエネルギー調達ができない場合は、企業収益が大幅に失われてしまう。
金融について、ESG投資の動きを見てみる。欧州から始まり北米、日本にも広がるESG投資は2016年から18年の2年間で4倍以上に拡大した。気候変動関連の財務リスクの情報開示や、長期的な戦略について企業に働きかけ、議決権を行使し、場合によっては株式売却する。これは一過性の動きではない。カーボンニュートラルという、市場や技術が変わる社会変化に企業がしっかり対応するよう、株主が働きかけるのだ。
金融市場整備
今年に入っての菅首相の施政方針演説でも、グリーン投資の普及について、民間にある現預金や海外の環境投資を呼び込むための金融市場の枠組み作りについて打ち出した。金融庁が今年立ち上げたサステイナブルファイナンスの有識者会合には金融からのほか私も参加しているが、多くの方々が問題意識を共有している。
まず脱炭素に向かう企業を支援しファイナンスを呼び起こすには、法定化などで情報開示を促す。また、金融側も企業の対応を正しく評価する。長期的な脱炭素技術開発にどうファイナンスをつけるか、投資・資金の動員についても考える。
背景には、電力分野を中心に再生エネルギーが加速的に進むなどの、エネルギーの大転換がある。発電コストが大幅に下がり、エネルギー転換への投資は史上最高を記録している。モビリティーやエネルギー、デジタルについて、セクターを超えたカップリングが進んでいる。
ビジネス戦略に気候変動リスクを統合していくのに重要な役割を果たすのが、投資家、金融の投資、融資行動だ。気候変動問題はもはや環境問題だけでない。国の政策も、産業政策としての気候変動政策、という位置づけとなってきた。企業は長期的に起ころうとしている社会の変化を経営に統合し、業界・業態を超えた連携や、地域との連携を考えていただきたい。
(2021/4/21 05:00)