モノづくり日本会議 新モビリティー研究会「自動車産業激変、今年加速する5つの潮流」

(2021/6/16 05:00)

モノづくり日本会議は5月19日、新モビリティー研究会として「自動車産業激変、今年加速する5つの潮流」と題して、日本電動化研究所代表取締役である和田憲一郎氏の講演会を、オンラインで開催した。米カリフォルニア州での「ゼロエミッション車」の義務付け方針など、自動車産業を巡る環境規制の動きは一気に加速している。環境が激変する中、今後どのような潮流が起き、日本の自動車産業はどのような生き残り策を図ることが望ましいか講演した。

PHEVも存続の危機

日本電動化研究所 代表取締役 和田憲一郎氏

まず環境規制がEV(電気自動車)化への流れを加速している。コロナ禍にもかかわらず、2020年欧州ではEVやPHEV(プラグインハイブリッド車)の販売は伸び、21年はさらに増える。背景には「25年に全面的にゼロエミッション車」と打ち出したノルウェーや英国、フランスなど各国の規制があり、米カリフォルニア州のニューサム知事が、35年に州内の新型車をゼロエミッション車と義務付けたことはインパクトがあった。日本でも小池東京都知事が30年の脱ガソリン車宣言をしている。

どこかが3年前倒しすると他も、といったように勢力図はどんどん変わる。半年ごと、3カ月ごとに見つめ直して規制を先取りしなければならない。

ガソリン車だけでなく、PHEVも存続の危機にあるのではないか。例えば米国には現在15万軒のガソリンスタンドがあるが、ガソリン車が減りスタンドも減るとPHEVも売れなくなると考えられる。

グリーンファイナンスに関するEU(欧州連合)当局の規制の草案にて、PHEVをサステナブル投資に分類することを禁じる、との報道があった。欧州自動車メーカーも、28年までの製造計画でEVに比べPHEVの車種が少ないなど、織り込み済みにも見える。欧州発による、PHEVの終わりの始まりではないか。

中国では昨年自動車販売が前年を下回ったが、新エネルギー車は伸びている。PHEVを作れるメーカーが少ないこともあり、ベンチャーのほとんどがEVを主力としている。中国の文化からいって、今回のように小型EVがヒットすると、他メーカーは類似の車両を開発、販売するため、小型EVは一つのジャンルとなるのではないか。

ただし、地場の自動車メーカーや新興企業はまだ力不足の面もあり、1980年代の独フォルクスワーゲンと上海汽車集団の合弁での成功体験を元に、再び外資の力を借りるのではないか。中国政府が米テスラにこれまで以上に優遇措置を与えて、生産拡大していくと推測する。

いずれにせよ21年は100年に一度の自動車産業の大変曲点だ。欧米や中国での環境規制加速や、中国での新エネ車への流れなど、10年分の変革が一気に来ている。この流れに乗り遅れると、日本メーカーも、あっという間に第2集団、第3集団になってしまう可能性がある。

自動運転車については三つに分けて考える。まず既存の都市の中心部では、もう普及しない思われる。都会人はスピード優先で、時間の読めない自動運転車は採用しないのではないか。

欧米・中の郊外エリア、例えばロサンゼルスからサンフランシスコへの高速道路などでは普及するだろう。そして、全くの新都市は、自動運転のために新しく都市を作ると言っても良く、間違いなく普及する。例えば北京の南西で「国家千年の大計」とされる雄安地区は、首都機能の分散と、根本的に新しい都市作りを目指している。自動運転の車は地下を走るよう道路を建設中である。

道路、通信、法律などについても自動運転については中国が先導していると思われ、最終的にリアルワールドでの実施が目標としてあることが一番強い。日本では規制の観点もあって実証実験止まりで、実用化になかなか踏み切れない。

部品メーカーに再編の波

部品メーカーには、無線でアップデートされる「オーバー・ジ・エアー」(OTA)によって、再編の波が押し寄せる。国土交通省は昨年12月、自動運行装置の要件や、サイバーセキュリティーやソフトウエアアップデートなどの自動車基準調和世界フォーラム(WP29)での国際基準を、国内の保安基準に導入する法令整備を行うとした。WP29での議論を見ると、ソフトウエアのアップデートなどについて、販売前に自動車メーカーもしくは部品メーカーが認証を受けなければならなくなると思われる。今後細かく規制内容が公表されると見ている。

また、現在の車両は機能部品ごとに電子制御ユニット(ECU)が付いており、多ければ100個くらい存在している。しかし、今後は分散型ECUから進化し、例えばテスラのモデル3では汎用ECUが3個、自動運転用のECUが1個の合計4個しかない。統合型ECUへの変化によって、標準化部分を外販する企業が成長するだろう。

OTAは自動車メーカーにとって大きな負担となりアウトソーシングが進む。サプライヤーの合従連衡も起こるだろう。生き残るには系列だけでなく、メガサプライヤーとの連携などが必要となる。

また、空調システム部品はEVの準主役となる。EVの場合、バッテリーしかエネルギー源がないので、冷暖房や放熱によるエネルギー使用量を、どうコントロールするかが重要となる。実走行距離を延ばすためには、要素技術開発が必要で、特に暖房方式であるヒートポンプの改良も課題となる。テスラのサーマルマネジメントシステムのモジュールには、自社開発した非常に複雑なオクトバルブが使われ、大きな効果を得ている。

EVへの充電には、実用化されているワイヤードの普通充電・急速充電だけでなく、ワイヤレス給電も22年頃に実用化される。走行中ワイヤレス給電の研究も進んでいる。また、乗用車やトラックにおいてバッテリー後と交換する方式も中国で実用化されている。

充電インフラ整備については、中国が25年までに次世代インフラ投資として170兆円を投入すると公表している。米バイデン政権は30年までに充電ステーションとして普通充電・急速充電合わせて50万カ所設置を公表したり、欧州委員会は30年までに300万カ所の充電スタンド設置を求めるなど、各国は充電インフラに積極的である。

(2021/6/16 05:00)

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