モノづくり日本会議 特別講演会「中小・中堅製造業の茹でガエル危機 ニューノーマル工場への変革」

(2021/6/28 05:00)

モノづくり日本会議は6月17日、「中小・中堅製造業の茹でガエル危機ニューノーマル工場への変革」と題して、アルファTKG(東京都中央区)社長の高木俊郎氏の講演会をオンラインで開催した。ポストコロナの世界の潮流変化に対して、製造業が世界情勢に鈍重な「茹でガエル」になってしまうことは大きな危機だ。茹でガエル化を回避し、持続可能なニューノーマル工場(NNF)への変革を目指す道を探った。

DX推進 現場のすり合わせ作業と連動

アルファTKG社長・高木俊郎氏

茹でガエルとは

周囲の環境が変化していることを感じないでいると、釜の中で茹で上がってしまう。テレビで流される解説をそのまま信じる人、欧米が日本を上回っていると信じる人、中国市場に魅力を感じる人、人工知能(AI)を使わない人。こういった人たちは茹でガエルになりかねない。歴史を理解して、世界から物事を見ることが大事だ。

世界の戦略

欧米の戦略をそのまま日本に落とし込むことはできない。例えばドイツは輸出大国だったが、先行きが危ぶまれるようになり、世界の流れを取り戻すポストグローバル戦略として、インダストリー4・0を旗印に掲げた。日本は国内需要で繁栄してきた国なので、インダストリー4・0と同じものを落とし込もうとしても実現できない。

だから、ドイツ神話は茹でガエルだ。日本は、日本に錨(いかり)を下してそこからできた製品を世界に販売する「インターナショナル」を目指すことが大切だ。

また、中国への夢も茹でガエルだ。中国の経済発展は無理を続けていて、どこかで壁にぶつかる。いまだに中国にマーケットがあると考えている人が日本にはいる。

欧米戦略のまねをするのではなく、DX戦略も含め、日本の遺伝子に原点復帰する。日本が遅れているという錯覚に陥るのではなく、日本の優れている点に着目すべきだ。もちろん欧米の優れた戦略も、単純に輸入するのではなく、学んでいく。

戦術に優れる

日本の中堅・中小企業の未来は明るい。歴史を学んでDXに活用しよう。江戸時代は工業(モノづくり)が町の中にマーケットインで展開されていた。つまり、工業団地で発展してきた欧米とは違い、日本は顧客が目の前にいて、使う人の心がわかった上でモノづくりをしていたのだ。そうしたモノづくりの遺伝子は、技術を伝承しながら受け継がれている。そのような国は世界を探しても類がない。歴史を知り、日本のモノづくりの強さがどこからきたのかを分析することが大切だ。

モジュール生産ではなく、ひとつの課題をすり合わせしながら協力して作り上げていくのが日本のモノづくりだ。すり合わせと、多品種少量生産であることが強みだと改めて認識した方が良い。ひとつの目的に皆が一丸となるといった、戦術に優れている点が日本人の特徴だ。

日本モデル

モノづくりにもおもてなしの心が込められているのが日本の特徴だ。例えば工場を3階建てのビルと考えると、1階部分は機械、2階は電気、3階はコンピューターで支えるのがインテリジェント工場だ。これにIoT(モノのインターネット)で4階を増築し、自動化工場を目指す。自動化できる要素は「段取り」「操作」「加工」「フィードバック」の四つだ。現状を生かしながらDXを進めることが成功の秘訣であり、3階まで建てたものを捨てるのではなく、3階の上に4階を増築するのだ。

DX成功事例

現状では各種データがバラバラに管理されている工場が多い。クラウドで共有化しただけではなく、各種データを紐(ひも)付けする必要がある。DXを実現させる要素技術としては、いままでのデータを管理し、自動紐付けして、AIで類似検索することなどがある。

精密板金工場の成功例としては、図面を探す時間がデータベースを検索することにより30%削減されたり、工程管理がすぐに呼び出せたり、機械周辺の作業環境が改善されることなどがある。現行のシステムを一切変えずにDXを進め、工程の進捗(しんちょく)を可視化することで、日本人が得意なすり合わせの作業を現場で行うことができる。

当社は中小製造業のDX化支援に取り組んでいる。45年にわたり製造業を見てきた経験を役に立てたいと考えている。

(2021/6/28 05:00)

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