(2021/6/28 05:00)
モノづくり日本会議は5月14日、モノづくり力徹底強化検討会・第10回勉強会を「住友商事のローカル5Gの取り組み」と題してオンライン開催した。第5世代通信(5G)を企業などが建物や敷地内など地域限定で利用するローカル5Gは、製造現場での活用に期待が高まっている。グループ会社の工場内で実証実験を行った住友商事の事例紹介とともに、製造業のDX(デジタル変革)の現状などを考察した。
AI活用 検査自動化/遠隔で品質確認
住友商事 5G事業部・石黒真人氏
製造業では少子高齢化などを背景とする人手不足がますます深刻となり、DX推進による生産性向上・安全性向上が求められている。ローカル5Gは、安定した高速大容量で端末から基地局までの「上り通信」(アップロード)を実現する無線通信インフラとして、製造業のDXを支える重要性が増していく。
当社グループ会社であるサミットスチール大阪工場(大阪市此花区)での実証実験では、人工知能(AI)を用いた「目視検査の自動化」と「遠隔からの品質確認」という二つのソリューションについての課題実証および実稼働中の工場での電波伝搬や速度測定といったローカル5Gの性能を評価する技術実証を実施した。この取り組みは当社グループを中核とした体制で推進した。
サミットスチール大阪工場における金属製品の加工工程では、製品表裏面の目視検査がある。「目視検査の自動化」として、このライン横に8Kラインスキャンカメラを導入し高精細画像を撮影。撮影した高精細画像をローカル5GでAIサーバーへ伝送し、AIによる製品不良の自動判定が可能なシステムを構築した。同システムにより、数秒でAIの判定結果が確認でき、将来的な生産性の向上などが期待できることを確認した。
高精細画像
また、「遠隔からの品質確認」では、製品の傷の映像を工場から本社の営業に伝送する。安定した上り大容量通信を実現するローカル5Gにより高精細な映像伝送を可能とし、遠隔地からも細かい傷まで確認することができる。実証では、工場全域で通信停止なく安定して映像が配信できることを確認した。工場と営業との社内間での品質確認を想定して実証を進めたが、社外の取引先との品質確認への活用可能性も期待できる。工場に行かなくても品質確認が可能になることから移動時間が削減でき、実装継続に向けた検討を行っている。
今後の普及に向けた課題と展望を考えると、まず今回の実証を通じて、ローカル5G黎明(れいめい)期ということもあり、コスト面が課題として感じられた。コスト低減に向けては、「5Gコア」と呼ばれる基幹制御システムをサービス提供事業者が保有して集中的に一元管理・運用していく方式が効果的だ。ユーザー側にとっては初期導入や運用保守監視の費用低減が期待できる。当社としてはインターネットイニシアティブ、ケーブルテレビ事業者などと共同で、5Gコアを保有するグループ会社「グレープ・ワン」を設立した。同社は保有する5Gコアを活用してローカル5Gに関する総合的なサービスを提供し、ケーブルテレビ事業者をはじめ、製造業などさまざまな産業分野へのサービス提供を目指す。
スマート化構想
製造業のDXについては、さまざまなテーマでの施策の導入が考えられる。何から手をつけたら良いかわからない、といった声も聞く。やはり、工場全体のスマート化の構想をよく練った上で、一歩一歩DXを推進する必要があるのではないか。
そうしたさまざまなスマート化を支えるインフラとして、ローカル5Gを位置づけている。実証実験などによって、まずは成功体験を積み上げていただきたい。
当社はローカル5Gを、工場のDX化推進の柱の一つと考えている。社内組織であるDXセンターとともに、幅広い分野でのDXを推進し、現場の課題解決につなげていきたい。
また、当社はローカル5Gに加えて、全国5G向けのインフラ整備(基地局シェアリング事業)を推進している。インフラとソリューションの両面から5G・ローカル5Gの普及展開を促進することで、さまざまな産業分野のDXおよび日本の地方創生に貢献していきたい。
(2021/6/28 05:00)