(2021/7/9 05:00)
ゲリラ豪雨と呼ばれる局地的豪雨や集中豪雨は、毎年全国で発生している。突発的な大雨は、河川の氾濫や浸水被害などを引き起こす。都市部では市街化や開発事業で地面が舗装され、雨水が浸透しづらくなることにより、多量の雨水が下水道管を流れ内水氾濫などの被害を発生させる。こうした水害へは自治体による河川の整備や雨水貯留施設などの対策だけでなく、個人でのさまざまな防災情報の収集や状況判断が必要となる。
都市型水害 対策急ぐ 大雨発生回数は増加傾向
気象庁のデータによると、1976年から2020年にかけて、全国における1時間降水量50ミリメートル以上の年間発生回数は増加傾向にある。76年から85年の10年間の平均年間発生回数は約226回であったのに比べ、2011年から20年にかけては約334回と約1.5倍増加している。
50ミリメートル以上の雨は道路が大規模冠水するレベルの雨量で、滝のように降る非常に激しい雨。今年は1月から5月にかけて、すでに24回発生している。
また1時間降水量80ミリメートル以上の雨も増加傾向にあり、今年は5月に熊本県で1時間に90ミリメートル以上の猛烈な大雨を観測した。倒木や落石などが発生し、通行止めや交通機関に影響を及ぼしただけでなく、この豪雨で命を落とした人もいる。
豪雨の原因は発達した積乱雲である。大気の状態が不安定な時に地上付近の暖かい湿った空気が上昇して、空気中の水蒸気が凝結することで積乱雲として成長する。通常、積乱雲の生成から衰退までは1時間程度だが、積乱雲が発生と発達を繰り返し停滞することで、線状降水帯を形作り、集中豪雨をもたらす。
都市部ではアスファルト舗装された道路などが日射による熱を蓄積しやすい。また建築物の高層化や高密度化による風通しの悪さが気温の低下を妨げることで、ヒートアイランド現象を引き起こす。
これらの熱が都市部上空における積乱雲の発達につながる。これからの暑くなる季節は注意が必要となる。
また市街化などにより地面の保水・遊水機能が低下しているため、大雨が降った際、地中へ浸透しづらい。下水道管や排水路の処理能力を超えた大量の雨水が流入することで、水があふれて内水氾濫といった浸水被害を引き起こす。地下鉄や地下街などの地下利用の高度化により、さらなる浸水被害を受けやすくなる。
居住地域の状況確認を
こうした都市型水害の対策において、ハード面では河川や下水道の整備、増強により雨水処理能力を高める必要性がある。また一気に雨水が河川や下水道へ流れないようにするために、公園などの地面に一時的に雨水をためる貯留施設や浸透施設の設置などが対策として挙げられる。
ソフト面においては浸水予想区域図や洪水ハザードマップの確認をし、水害リスクや避難ルートの把握が重要になる。またスマートフォンから気象庁のナウキャストによる雨雲の動き、国土交通省の川の防災情報で河川の状況や洪水予測など、さまざまな防災情報アプリでリアルタイムの情報を得ることもリスク回避につながる。
ゲリラ豪雨は局地的発生ではあるが、近隣地域で発生した場合、時間の経過とともに雨水が流れ、自分の居住地域にも被害が広がってくる恐れがある。
被害を避けるためには、自分の居住区域の水害の危険性を改めて確認することが重要だ。自治体が進める対策だけでなく、個人でも情報を集め、状況を判断することが被害防止につながる。
避難勧告→避難指示に 災害対策基本法改正
危険な場所から早く非難を
災害対策基本法が改正され、大雨警戒レベルの避難情報が大きく変更された。5月20日から施行されている。
警戒レベル4のうち「避難勧告」が廃止され、「避難指示」に一本化された。これは本来避難すべき勧告のタイミングで、避難せず逃げ遅れたことで被災した事例が多数あったことによる。警戒レベル5「緊急安全確保」は、すでに安全な避難ができず命が危険な状況を示す。警戒レベル5が発令される前に避難し、自らの判断で最善の安全確保行動をとることが命を守ることにつながる。
多くの場合、自治体が発令する避難指示より前に、防災気象情報が発表される。避難指示が発令されていなくても、気象庁の危険度分布や河川の水位情報などを用いて、状況を判断することが重要だ。
東京・武蔵野市の水害対策
豪雨被害を踏まえて
2005年9月4日から5日にかけて、東京23区西部を中心に「杉並豪雨」と呼ばれる局地的豪雨が発生した。このエリアは神田川や善福寺川などの河川が流れている。市街化している地域では地面の保水・遊水機能が減少しているため、河川への流出量が増大し、水害が起きる。杉並豪雨では、1時間に100ミリメートル以上の大雨を記録し、浸水被害が5000棟を超えた。
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水害が起きる原因の一つとして下水道管に流れる水の量が多くなり、あふれてくることが挙げられる。この対策として、下水道管への流入量を減らす必要がある。
東京都建設局の区市町村別水害データによると、武蔵野市は杉並豪雨の際、床下・床上合わせて131棟が内水による浸水被害を受けた。これを受けて同市下水道課では06年から、市立小中学校のグラウンドに雨水貯留浸透施設の設置を進めている。
雨水貯留浸透施設はグラウンドの地下に、プラスチック製のブロック材を層状に埋設し、ブロック材同士の隙間に水を貯留、徐々に地中へと浸透させる。プラスチック製のため軽量で施工性に優れている。
特に校舎や建物の屋根に降った雨水は地面へと浸透しないため、そのまま下水道管に流れてしまうと流入量が増え、下水道管に負荷がかかる。校舎などに降った雨水を同施設に集め、浸透させることで下水道本管に余裕ができ、浸水被害を防ぐことができる。
同市では、継続して雨水貯留浸透施設の設置を進めており、すでに市立小中学校18校中16校に設置が完了。今年も設置工事を行う予定としている。
また雨水の河川への流出抑制や、雨水浸透施設などの設置普及を積極的に進めるために「武蔵野市雨水の地下への浸透及び有効利用の推進に関する条例」を定めており、都内で唯一、雨水浸透施設などの設置について条例化している。
雨水浸透ますなど設置
公共用地だけでなく、民有地での雨水対策も進めていく必要がある。雨水浸透ますは、雨水が入るとあいている穴から少しずつ地中へ浸透し、下水道管への流入量を減らす。屋根に降った雨は通常、雨どいを通って下水道管へと流れるため、その間に雨水浸透ますなどを設けてもらうことが重要となる。この設置は、建物の新築や建て替えに伴って行われることが多い。
近年、市内で新築した9割以上が設置している。市民へ設置の協力や理解を得るために、同市下水道課では市報での助成金制度の広報活動や、専門の職員による戸別訪問などに加えて、雨水貯留タンクの導入も推進している。
防災に関する市民の意識、興味・関心が高まっており、雨水貯留タンクの設置補助金の申請件数は増加傾向にある。
くぼ地に貯留施設 周辺地衣への被害抑制
同市の地形は台地で平たんであるが、吉祥寺北町エリアの一部はくぼ地となっており、過去、浸水被害が起きていたことから、14年度に北町保育園の建て替えに伴って、園庭に雨水貯留施設を設置した。
雨水貯留施設は、集中豪雨時などに道路上にあふれた雨水を一時的に貯留し、雨がやんだ際に排水ポンプにより下水道管へと放流する。大きさは内径16メートル、高さ26メートル(9階建てビル相当)で、貯留施設容量は4500立方メートル。
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同市はエリアごとに雨水を周辺地域の河川へと排水している。最もエリア面積の大きい武蔵野第一処理区は、杉並区の中央を流れる善福寺川に雨水を排水しており、大雨発生時は河川への負荷がかかる。
少しでも下水道や河川への負担を減らすために、浸透施設や貯留施設の設置など、これまでの対策を進めていくことに努めている。
同市下水道課事業計画係の南海亮輔係長は「大雨は市内での浸水被害だけでなく、放流先の河川での氾濫にもつながる。被害を生まないためにも、雨水浸透施設などの設置が重要になる」と対策に力を込める。
長野県千曲川の災害対応
地域の人々に避難場所提供 安全確認システム活用促進
2019年10月、大型の台風19号が上陸し、関東・東北地方を中心に大雨による河川の氾濫や計140カ所の堤防決壊など大規模災害をもたらした。
河川では千曲川において警戒レベル5の氾濫が起き、長野県内では住宅が全半壊3418棟、一部損壊3422棟、浸水1795棟と甚大な被害を受けた。
上田市のランドマークとして親しまれてきた、上田電鉄別所線が走る赤い鉄橋「千曲川橋梁」も氾濫により崩落した。今年3月に復旧が完了し、運行再開している。
電気測定器メーカーのHIOKIは、上田市に本社・工場を構える。千曲川から約3キロメートル離れた高台に位置しているため、直接的な被害を免れたが社員十数名の家屋や車両などに被害を受けた。また物流や資材調達の停滞という影響も発生した。災害時は安否確認システムを活用し、社員やその家族の安否・被害状況の確認を急いだ。
同社は社会と地元への貢献を理念に、地域交流を深めるため00年から「HIOKI祭り」を開催しているが、19年は台風により中止となった。地域の避難場所として社員寮の開放を行い、地域の人たちが安全に避難できる環境を提供した。
事業継続計画(BCP)の取り組みとして、安否確認システムのコミュニケーションツールとしての活用を促進している。同システムを定期的に使用し、万が一の災害発生にも対応できるよう、備えている。
(2021/7/9 05:00)