(2021/7/23 05:00)
東京五輪がきょう開幕する。開催延期や多くの会場が無観客開催、選手らに課せられる厳格な行動制限など近代五輪史上、極めて異例の大会。緊急事態宣言下での開催に世論の批判は小さくないが、問われているのはコロナ禍での開催に知恵を絞った経験をその後の社会にどう生かすか。それが東京大会最大の「レガシー」となる。
205の国と地域から約1万1000人が参加する。新型コロナウイルスの感染対策に神経をとがらせる厳戒下での開催となる。選手や大会関係者への検査や行動制限を徹底し、五輪を契機とした感染拡大を何としても封じ込めなければならない。“感染第5波”が迫る東京の医療体制に負荷を与えないことが大前提である。
観客不在で華美な演出も控える今回の大会は五輪の原点を問い直すものになる。1984年のロサンゼルス大会以降、顕著になった五輪の商業イベント化は競技者の可能性を拓いてきた側面がある一方で、国際オリンピック委員会(IOC)との契約実態や経済効果を前に、五輪の意義をどこに見いだすかは立場によって見解が分かれる。とりわけ企業スポンサーは開催を巡る状況が二転三転する中、対応に苦慮してきた。
五輪はスポーツの祭典にとどまらずその後の社会を占う革新的な技術やサービスが普及する原動力となってきたのは事実である。その点では今回の大会も例外ではなく、むしろコロナ禍で顕在化する社会のニーズを色濃く映し出している。
例えば最新の情報通信技術を生かし、離れた場所にいる選手と観客やそれぞれの国で応援する家族らをつなげる試みは、世界の往来が制限されるなかでのコミュニケーションを象徴する。選手村で提供されるサービスの中には人との接触機会を減らしつつ業務効率化を実現するものが少なくない。
8月24日にはパラリンピックの開幕が控える。トップアスリートの熱戦にエールを送りつつ、これからの世界にどんな五輪がふさわしいのか思いをはせる機会としたい。
(2021/7/23 05:00)