産業春秋／塙保己一の“心眼”

今年は盲目の国学者塙保己一（はなわ・ほきいち）の没後２００年にあたる。江戸後期、４１年かけて大文献集『群書類従』を完成させた。貴重書の散逸を免れた功績は大きい。

三重苦を克服した「奇跡の人」ヘレン・ケラーや渋沢栄一に影響を与えたことでも知られる。出身地の埼玉県本庄市では命日の９月１２日に遺徳顕彰祭を催し、市内の小中学生らが群読劇「塙保己一物語」を演じる。

埼玉県立特別支援学校塙保己一学園の卒業生、金子和也さん（サイバーエージェントウィル所属）が東京パラリンピックのゴールボールに出場する。小学４年生で視神経の難病を発症し、野球を断念。中学３年の時、パラアスリート発掘事業でゴールボールと出会う。

塙保己一学園高等部ではフロアバレーボールでエースアタッカーとして全国優勝に貢献する。「キャプテンシーがあり、仲間のことを考え優しい声がけができる」と教頭の秋葉博之さん。パラリンピックではサウスポーから繰り出す速球を武器にメダルが期待される。

保己一を敬愛したヘレンは著書の中で、目の見える人は事の本質を見落としやすいとして「視力を超えた視力」の大切さを説く。保己一の“心眼”は後世へ脈々と引き継がれる。