(2021/11/23 05:00)
「牛若の御子孫なるか御新造がわれをむさしと思い給ふは」。古典落語『紫檀楼古木(したんろうふるき)』は狂歌遊びの面白さを今に伝える。
すっかり寒くなった街を汚い身なりで流すキセル屋の老人に、あるお宅の若奥様から注文があった。たばこのヤニを落として竹管を交換し、お手伝いさんに返す。お手伝いさんは奥方に「なんであんなむさいじいさんに頼んだんですか?」「そんなにむさいのかい?」。
門の外で聞いていた老人が「むさしむさしとは、武蔵坊弁慶を慕う牛若丸のようだ」と冒頭の狂歌を詠んだ。その出来に驚いた奥方が、老人と返歌をやりとりする。実はキセル屋は狂歌の大宗匠紫檀楼古木だった。
古木は古喜とも書く実在の狂歌師。元はキセル店の主人で、商売に失敗しほそぼそと行商で暮らしていた。この話を江戸期の庶民が面白がったことに、滑稽話だけではない落語の奥深さがある。
奥方は失礼をわび、寒風を案じ暖かい羽織を渡そうとするが、古木先生はこれを笑って断る。意地というより、くたびれた服でも暮らし向きを苦にしない風雅な老人像が思い浮かぶ。きょうは「勤労感謝の日」。職業に貴賤(きせん)なく、貧しくとも心豊かに暮らせる―そんな教えと思う。
(2021/11/23 05:00)