(2022/8/16 05:00)
電力自由化に期待した企業や国民を裏切ってはいけない。
政府は、最近の電力逼迫(ひっぱく)に伴う電気料金体系の検討を進めている。産業界として注視すべきは、中小企業の多くが利用する高圧電力の動向である。
今春以来、新電力の事業撤退や廃業が相次いでいる。電力会社は現在の燃料価格では「電気を売るほど赤字」のため、新規の受け付けを停止中。残された方法は、料金が何倍にもなるリスクを負った市場変動型料金と契約するか、東京電力はじめ旧一般電気事業者の最終保障供給への切り替えしかない。
最終保障は電力自由化のセーフティーネットだ。電気料金を割高に設定しているものの、現状では市場変動型料金より安い。このため新電力を解約された需要家は最終保障を長期に利用する異常事態になっている。
これを問題視した政府は、市場価格の変動を上乗せする形で最終保障料金を値上げする方針を決めた。並行して、旧一般電気事業者は標準的な業務用電力の受け付けを再開する方針。ただ標準メニューそのものの料金の見直しも不可避の情勢だ。
企業にとって、電気料金の大幅な上昇が望ましくないのは言うまでもない。しかし国際的なエネルギー価格の高騰の中で、電力会社が赤字になってまで安い電力を供給するのは持続不可能だ。合理的な範囲の値上げはやむを得ない。
とはいえ新電力からの「戻り客」ばかりに割高な料金が求められるようだと問題だ。電力自由化を信じた需要家ほど「裏切られた」と感じるに違いない。また一般家庭向けの低圧電力の値上がりが小さく、産業用にしわ寄せがいく現状も放置できない。燃料価格の変動は、広く薄く受け入れるべきものだ。
多くの新電力が撤退に追い込まれ、またそうした新電力と契約した需要家が割高な電気料金にさらされることは、電力自由化への信頼を失わせる。原子力発電所の再稼働を含む供給力の強化と、電気料金体系の見直しを急ぎ、需要家に大きな不公平感が生じないよう努めてもらいたい。
(2022/8/16 05:00)