(2022/9/16 05:00)
貿易赤字の拡大がさらなる円安を誘発し、円安の進行が一段の赤字拡大を招く“負の連鎖”に陥っている。貿易赤字の原因である輸入の増加は円売り・ドル買い取引の増加を意味する。貿易赤字の拡大に伴う円売りがもう一段の円安を招き、輸入物価の上昇が貿易収支の悪化につながる。8月の貿易赤字は過去最大に達し、赤字は13カ月連続と定着していることが懸念される。円安進行に警戒したい。
財務省が15日発表した8月の貿易収支は2兆8173億円の赤字で、比較可能な1979年以降で過去最大の赤字幅となった。ウクライナ情勢に伴うエネルギーの高騰と円安により、輸入が前年同月比49・9%増と大幅に増加したためだ。原油輸入は同90・3%増、石炭は同3・4倍、液化天然ガス(LNG)は同2・4倍に跳ね上がった。この傾向がしばらく続くことを前提に事業に臨む必要がある。
円安が追い風となる輸出は同22・1%増と増えたが、輸入の増加率には及ばなかった。日本企業の海外現地生産が拡大し、中国をはじめ主要国の経済減速が輸出の伸びを抑えている。
足元の円安・ドル高は、日米の真逆の金融政策と金利差拡大を主因としている。だが構造的にかつてほど輸出が伸びない中で、貿易赤字の拡大と円売りが共鳴し合い、円安要因となっていることにも留意したい。
他方、円安の底流にあるのが日本の国際競争力の低下とされる。国際通貨基金(IMF)によると、21年の日本の国内総生産(GDP)は世界3位ながら1人当たりGDPは28位に沈んでしまう。足元の急激な為替変動の直接的な要因ではないが、円安“基調”の根拠の一つになっている。デジタル化をはじめとする成長戦略の強化により、生産性の向上を推進したい。
政府・日銀は進行する円安是正に向けた“口先介入”を繰り返す。だが米連邦準備制度理事会(FRB)は20、21日の会合で政策金利を0・75―1%も大幅に引き上げると取り沙汰される。米国の景気後退は対米輸出の減少につながるだけに、米国には慎重な決断を求めたい。
(2022/9/16 05:00)
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