(2023/2/10 05:00)
スマートフォンを使い始めた知人の作家とメールをしていたら、先方の“既読スルー”で止まってしまった。数日後、訂正のはがきが届いた。メールはまだ不慣れで「分厚い本は堪(こた)えますと打ったはずが、なぜか『答えます』になっていて、あとでびっくりしました」と。
メールなら修正も、絵文字を入れて瞬時に伝えられる。しかしスマホが「90歳の手習い」なら話は違う。「とんでもない文章を送って恥の上塗り」と綴(つづ)る作家の、居住まいを正す姿が想像できる。デジタル化の時代、ちょっと珍妙で心地よいやりとり。
お札や新聞紙、はがきなどを通じ、経済や文化を支える近代製紙業が日本に誕生して12日に150年を迎える。渋沢栄一が東京・王子に設立した「抄紙会社」。その流れを組む王子ホールディングスは社名に街の名前を使い、同根の日本製紙は「洋紙発祥の地」を守り続け、先達の功績をかみしめる。
諸事業を立ち上げた栄一は新たな知識に貪欲な「吸収魔」、人を引き合わせる「結合魔」、意見を述べる「建白魔」だったとされる。
情報を伝え、人と人をつなぎ、メッセージを託す紙の役割は永久不滅だ。バレンタインデーの14日、カードに一言添えてみては。
(2023/2/10 05:00)