(2023/7/18 05:00)
為替相場が円高・ドル安基調にある。懸案である米国の物価上昇率が鈍化し、日銀が許容する長期金利の上限を引き上げるとの市場観測が背景にある。ただ日本は貿易赤字が長引いており、極端な円高には傾きにくいとの見方がある。日本は成長投資を推進し“稼ぐ力”を引き上げることで、適正な為替水準を模索することが求められる。
日銀がまとめた6月の企業短期経済観測調査(短観)によると、2023年度の全規模・全産業の想定為替レートは1ドル=132円43銭。6月末に同145円台だった為替相場は先週末に同137円台を付けるなど円高が進行している。為替差損を懸念する水準まで円高が進むのか、日米金融当局が下旬に予定する会合を見極めたい。
米国が物価上昇率鈍化を受け年内の政策金利の引き上げを当初の2回から1回に減らし、日銀が10年物国債利回りの上限を引き上げれば、日米金利差縮小で円が買われやすい。
ただ足元の為替相場は円高というよりも、米国の長期金利の低下を受けたドル安の色彩が濃く、日本は構造的には円安に傾きやすい。日本は5月まで22カ月連続の貿易赤字で輸入額が輸出額を上回る。ドル建ての輸入は、円を売ってドルを買う必要があり、円安要因になる。
5月の経常収支は黒字ながら貿易収支の赤字を第1次所得収支の黒字で補ったに過ぎない。第1次所得収支は海外で得た利子・配当収入などで、ドル建てのまま再投資されることが多い。海外で稼いだドルを円に交換しないため、円高に寄与しないことは留意しておきたい。
貿易収支を改善するには、日本の低い潜在成長率を引き上げる必要がある。デジタル変革(DX)や人工知能(AI)などへの成長投資を推進し、賃上げを起点とした経済の好循環を早期に回したい。リスキリング(学び直し)により成長分野への労働移転を促すなど、人への手厚い投資が求められる。
急激な円高も円安も日本経済にはプラスに作用しない。円の価値向上とデフレ脱却により、為替変動への耐性を高めたい。
(2023/7/18 05:00)