(2023/7/20 05:00)
東京電力福島第一原子力発電所の「処理水」の海洋放出について、中国政府が猛反発している。海洋環境への影響を懸念しているだけでなく、中国の政治的な思惑も透けて見える。処理水に関心が高い太平洋島しょ国や東南アジア諸国連合(ASEAN)と懸念を共有し、取り込むことで米国と日本の対中包囲網にくさびを打つ狙いがあるとみられる。日本はこれらの国・地域に処理水の安全性で説明を尽くし、中国の試みを徒労に終わらせる必要がある。風評被害の抑制につながるはずだ。
日米や中ロなど27カ国・地域が参加したインドネシアでのASEAN地域フォーラム。議長国のインドネシアが17日に発表した議長声明には、福島第一原発の処理水は盛り込まれなかった。中国は執拗に処理水の海洋放出反対を訴え、参加国・地域に同調を求めていた。だが政治的に中立なASEANなどは慎重姿勢を崩さなかった。中国の思惑が外れた冷静な議長声明が出されたと評価したい。
中国は2022年4月にソロモン諸島と安全保障協定を結ぶなど、太平洋島しょ国の軍事拠点化も目指している。かつて南太平洋が核実験に使われた経緯から、中国は処理水の海洋放出への懸念を共有したい意向だ。だが国際原子力機関(IAEA)のグロッシ事務局長は10、11日に南太平洋諸国を訪れ、処理水の安全性や、監視結果を定期的に報告する方針を伝え、現地の理解が広がりつつある。
日本政府は、環境や人に影響しない科学的根拠に基づく海洋放出であることを粘り強く国際社会に訴える必要がある。すでに韓国は処理水が同国近海に及ぼす影響はないとし、欧州連合(EU)は福島第一原発事故後に日本産食品に課してきた輸入規制を8月3日から撤廃する。こうした機運を醸成したい。
中国は科学的根拠のない批判を繰り返し、日本が提案する専門家同士による議論も拒む。日本の海産物に対する一段の規制強化が想定される。日本政府は国内漁業者の損害への支援や風評対策に万全を期し、地元関係者の理解を得る必要がある。
(2023/7/20 05:00)
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